ネット時代に、なぜ「読書」が大事なのか?

カリスマ編集者と経営学者、「読書」を語り尽くす(下)

 ネットメディアの浸透、電子書籍の普及などで、変わりつつある読書のかたち。ネット時代における読書の意義とは何か? 読書によってどんな能力が培われる のか? 読書好きの経営学者、楠木建一橋大学大学院教授と、『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』などのヒットを生んだ、カリスマ漫画編集者、佐渡島庸平コルク社 長。ともに幼少期を南アフリカで過ごした2人が、読書について語り尽くす。

※ 対談(上)はこちら:あなたの「読書」にセンスはあるか?

企業も商品も「ストーリー」が必要な時代

楠木:佐渡島さんの仕事は、その人が商業的に成功して有名になる前から、才能のあるなしを判断するわけですね。目利きという話でいうと、佐渡島さんはどんなジャンルでも、全方位的に人の才能を見分けられるのか。それともご自身が才能を見極められる幅が、ある程度決まっているのですか。

佐渡島:全方位という訳ではないです。僕との相性はあると思います。ただ、新人作家の描いているジャンルというよりも、作家のハートを見ているし、その作家が自分で努力して勉強できるかどうかをすごく見ています。

以前は漫画家の才能しか見抜けないと思っていましたが、会社を作って、投資対象として選ばれる立場でVCの人と話をしていると、「ああ、僕と似ているな」とすごく思いますよね。彼らはほとんど事業を見ていなくて、経営者である僕のハートを見ている。僕が漫画家や作家を見ている目とほとんど同じだと思います。そう考えれば、漫画家以外の才能にも目利きはできるでしょうね。

楠木:それで佐渡島さんは「コルク」を創業されたわけですが、インタビューを拝読したら、会社の規模を大きくするおつもりはないのですね。

佐渡島:事業規模的にはピクサーみたいにしたいというのがあります。ピクサーの作品数は少ないけれど、売り上げは大きい。アニメからスタートしたピクサーの場合は、スタジオが必要なので社員が増えますが、僕らがやろうとしているのはピクサーのストーリーを作る部分だけです。漫画から世界中にいろんな権利を売っていきたいと考えていますから、基本的に人はたくさん必要ないですよね。

楠木:なるほど。今おっしゃっているストーリーというのは漫画のストーリーで、佐渡島さんをはじめとするコルクの方々が作るということ?

佐渡島:はい、今話題にしたのは、漫画のストーリーのことです。ストーリーを作るのは、漫画家や作家です。でもせっかくだから、広義の意味のストーリーについて、楠木先生とはお話したいと思って、今日は来ました。

僕は編集者として、作家の作ったストーリーにあまり口出ししないとはいえ、ある種のディレクションは絶対にします。本当に当たり前の話になってしまいますが、戦後はモノが足りなくて、まずはモノをたくさん作った会社が大きくなった。その次に大きくなったのは質のいいものを作るソニーやホンダのような会社です。その次に勝ちだしたのが、アップルのようなデザインを重視する会社。日本で佐藤可士和さんが活躍している例を見ても、今は製品から店舗まで、デザインが重視されています。そして今後、どの会社の製品の質もデザインもよくなっていくと、製品やお店の持つストーリーが重要になってくる。そのとき編集の能力が生かせると思うのです。

編集者が、作家にディレクションする広義の意味でのストーリーをつくる力が、役立ちます。漫画の編集者の場合、1ページ目から最終ページまで読者にどうやって読ませて、次の巻を買ってもらうかを考えます。書籍の編集者も目次と帯と装丁とで、どうやって購買まで結び付けるか、すべて流れで考えているのです。

楠木先生が「ストーリーが大切だ」と言う意味は、「戦略やアイデアに流れがないと駄目だよ」ということだと思います。「1個1個のアイデアだと普通のよさだけど、これとこれが並んだらすごくいいよね」「アイデアに流れがあったり、呼応しあったりするのがいいよね」という組み合わせの話だと。その組み合わせについてむちゃくちゃ考えているのが編集者です。

楠木:なるほど。

佐渡島:企業戦略、商品戦略においても組み合わせが大切です。だから編集者は経営者に対しても商品に対してもアドバイスができる。成熟した国ではデザイナーがアドバイザーとして企業に入っているけれども、そろそろそこに編集者が入るべきじゃないかと思っています。僕は漫画家や作家のマネジメントというかたちで起業したけれど、実際に来た相談や仕事は、それにとどまりません。「僕の持っている価値って、ストーリーのディレクションができることなんだ」と気づかされました。

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