東芝の半導体、買収先に塞がるサムスンの壁 日の丸半導体の地位も大きく低下しかねない
東芝の半導体子会社、東芝メモリの売却手続きは、5月19日に2次入札が締め切られた。半導体大手の米ブロードコムや投資ファンドの米ベインキャピタル、EMS(電子機器製造受託)最大手の台湾・鴻海精密工業などが応札したもようだ。
東芝は2兆円以上での売却を希望しており、ブロードコムと鴻海の入札内容はこの金額を超えたようだ。合弁相手の米ウエスタン・デジタル(WD)は売却差し止めを国際仲裁裁判所に申し立てているが、これはWDの買収意向額が1兆5000億円程度にとどまり、入札では他陣営と競争にもならないからだ。WDは2次入札にも参加していない。
東芝は巨額の債務超過を解消するために、半導体子会社を一定の金額以上で売却する必要がある。だが半導体事業にとって最も重要なことは、売却の金額ではなく、「買収後に早期かつ継続的に投資できる買い手かどうか」だ。
年4000億円を投じなければ追撃できない
東芝メモリが製造するのは記憶メディアとして使われるNANDフラッシュメモリ。身近なところでは中級価格帯以上のパソコンにSSDとして搭載されているが、今後はデータセンターのサーバーやストレージ需要で市場が大きく拡大すると予想されている。大量のデータを必要とする機械学習(人工知能=AIの一種)の普及や、クラウド型サービスの利用拡大が牽引役となる。
週刊東洋経済は5月27日号(22日発売)で『半導体の覇者 熱狂する世界 沈む日本』を特集。AIやIoT(モノのインターネット)時代の到来で活況を呈する半導体市場の覇権争いを追った。IT調査の米IHSマークイットによると、NAND市場における東芝メモリのシェア順位は、韓国サムスン電子に続く2位。だが東芝のシェアは17.4%と、サムスンの36.1%に大きく水を開けられている。3位は合弁相手のWD(米サンディスクを買収)だが、シェアは15.7%であり、東芝と合算してもサムスンには届かない。これが現状だ。
今後、東芝がデータセンター需要を取り込み、サムスンより高い成長を遂げられるかというと、現状は残念ながら望み薄だ。業界全体でメモリの需給が逼迫しており、成長には増産投資が不可欠というのが各社の状況。しかし東芝は設備投資計画でもサムスンに遠く及ばない。
半導体調査の英ICインサイツによると、サムスンの半導体関連の設備投資額は2016年、113億ドル(約1.25兆円)だった。これに対し東芝は18.4億ドル(約2047億円)、WDは17.5億ドル(1947億円)にとどまった。サムスンの半導体事業にはNANDのほかにDRAMやプロセッサーなどもあるため、113億ドルすべてがNANDに使われるわけではない。だが仮に、総額の3分の1しかNANDに使えないとしても、やはり東芝・WDの額を上回る。
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