日本の「受動喫煙防止策」はどうにも甘すぎる 欧州諸国と比べると著しい立ち遅れ

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「禁煙のはずのカフェにいたら、電子たばこを隣のお客がいきなり吸い始めたの。店の人にクレームしても『あれはOK』と繰り返すばかり。飲み物が出てくる前だったから、怒って店から出ちゃった……」

ロンドンにある英国唯一のアイコス公式ショップ。外国人訪英客の来店が多いという(ロンドン・ソーホーにて、筆者撮影)

このほど東京から帰ってきたバーバラさんは「日本でのエピソード」についてこう話してくれた。彼女が見たのは日本で大人気の加熱式たばこ「アイコス(iQOS)」だ。

アイコスは2014年、世界中で名古屋とイタリア・ミラノの2都市でのみ試験販売を開始。ロンドンのアイコス公式ショップでスタッフにどのように売られているか現状を聞いたところ、「今年4月現在で販売エリアは21カ国に拡大したが、ほとんどの需要は日本国内」なのだという。

禁煙の店でもアイコスは吸ってもいい?

つまり、日本でアイコスは人気商品になっているとはいえ、世界各国ではあまり知られていない。バーバラさんが「禁煙の店でもアイコスは吸ってもよい」といったローカルルールが日本にあることなど知るよしもなく、「電子たばこを吸い始めた」と怒り出すのも無理はない。

「電子たばこも含め、禁煙」と明示された列車内の表示(筆者撮影)

英国を含む欧州の国々では紙巻きたばこであれ電子たばこであれ、飲食店などの屋内では全面禁煙が決まりだ。訪日する外国人の中には分煙対応の店さえも嫌がる人もいる。アイコスの存在を知らない嫌煙の外国人がたまたま「禁煙が基本だが、アイコスの使用はOK」というお店に入ったらなんらかのトラブルになりそうだ。

ちなみに、英国のある禁煙推進団体はアイコスについて、「新しい製品により、たばこの害がより軽減されることはいいことだ」としながらも、「他人に及ぼす害について、さらなる独立機関による分析が必要」と厳しい姿勢を崩していない。仮に同製品が欧州である程度の市民権を得ても、いまのところ「どうあれたばこはたばこ。店内で吸うのはダメ」と店の人や周りの人々から言われてしまう可能性が高い。

ロンドン東部で長年にわたって周辺住民にたばこを売る雑貨店の女主人は、「アイコスがどんなものなのかよく知らないが……」と断ったうえで、「英国で禁煙が奨励されている背景には受動喫煙の防止という理由もあるが、一方で喫煙年齢の若年化を抑える目的もある。『煙やにおいが出ない新しいデバイスだ』とたばこメーカーが訴えたところで、政府が例外的に飲食店などでの使用を認めるとは到底思えない」と手厳しい。

冒頭に述べたように「たばこのない五輪」を日本であと3年以内に実現すべきならば、アイコスなど新型たばこによる喫煙を「禁煙のはずの店」で許すのははたして正しい方向なのか。

欧州諸国と比べると対策が甘いとはいえ、「健康増進法」の改正がどのような決着を見せるかも含め、五輪に向けて受動喫煙問題がどう推移するのか。引き続き状況を注視すべきだろう。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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