川端康成に学ぶ『"装い"サムライ道』 -グローバルの檜舞台で印象づける方法-

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こちらの模様は、「麻」を表しています。

では、なぜ昔の人は「麻」を衣類のモチーフに取り入れたのでしょう?

日本では江戸時代初期から木綿が普及し始めますが、木綿が普及するまでは、麻は日本人にとって主要な衣料だったのです。もっとも上流階級の中では戦国時代から取り入れられ始めた木綿ですが、庶民の中ではまだまだ麻が主流でした。そう考えると、“日本人”と“麻”の付き合いは木綿よりも長いのです。

木綿は暖かく丈夫で、それゆえに江戸時代に入ってからの普及スピードは速かったのですが、木綿が麻にとって変わった後も、日本人は麻を愛し続けました。麻は成長が早く、まっすぐに丈夫に育つことから、“魔除け”とも考えられていました。それ故に麻を簡略化して“模様”にし、赤ん坊のおくるみや衣類にモチーフとして使われ始めたのです。麻模様は、子どもを守り、健やかに成長するように願いを込められました。そのほか、大人用の着物や襦袢にも多く使われています。

これらの衣類には、着る人がいつまでも健康で元気に過ごせるよう、願いが込められています。

そのほか、古くから着物に使われている“模様”には、意味があるものが多のです。ただ文化を示しているだけでなく、波は無限に広がる吉祥を、松は長寿を、鶴や亀を模様として織り込めば、めでたさを表し婚礼衣装などに用いられます。

このように、服は服であれど、服のみにあらず。古の時代から、服は人々にとって、願いを込め、意味を持ち、身体を守るものなのです。

あのノーベル賞受賞作家も、羽織袴で臨んだ

わたしにとって、見るたびに胸を締め付けられる写真があります。それは、川端康成のノーベル賞受賞時の写真。ストックホルムでの授賞式での写真です。ひとりだけ燕尾服ではなく、羽織袴です。ここに羽織袴で挑んだ川端康成の心情を、わたしはしみじみと感じます。

(写真:Getty Images)
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