固定資産税に翻弄される人たちの悲痛な叫び 時代に合わなくなっているのに変わらない

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しかし、地方税法は自治体に少なくとも年1回の実地調査を義務づけている。固定資産税に詳しい神野吉弘税理士は「固定資産税は自治体が一方的に課税する税金だ。本人の申告がなくても、自治体は気づかなかったでは済まない」と指摘する。楠原さんは「ちょっと聞けば、私たちの庭であることはわかることなのに、聞かれたこともない」と怒る。

土地の用途や形、条件によって固定資産税額は変わってくる。評価を決めるのは自治体だが、疑問を抱く所有者も少なくない。

土地評価変更、開示せぬ内規

東京都府中市の商業環境デザイナー宮尾舜三さん(71)も、父から相続した新潟県妙高市の土地を2009年に確認したところ、敷地の周りの土地に敷地並みの固定資産税がかかっていることがわかった。

周囲の土地は家の敷地より一段低く、ぬかるんでいる。敷地と同じ課税はおかしいと、市役所に確かめると、周囲の土地は「宅地」から「雑種地」に変更された。税金も年間約1万円下がって2000円程度になったが、過去の分は戻らなかった。雑種地とは主な地目に分類されない土地のこと。自治体が課税の基準を決めている。

朝日新聞を読んだ宮尾さんが市役所に問い合わせると、市民税務課から手紙が届いた。「(2010年度に)宅地から雑種地への地目変更ができるよう『雑種地比準表』を定めたことから、評価地目の見直しが可能となりました」などと書かれている。

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その意味について、筆者が同課に取材すると、市側は、宮尾さんの指摘をきっかけに「土地評価事務取扱マニュアル」を見直した、と説明した。宮尾さんが指摘した年までは宅地で評価をして、翌年から新しく作った基準を適用したので「間違い」ではなく、さかのぼって税金を戻すことができないという。

宮尾さんは「新たな基準を文書で示してほしいと求めたが回答がない。税額を決めるルールも示さずに課税する姿勢は信用できない」と不信感をあらわにする。筆者も新たな基準について市に尋ねたが、同課は「市役所の内規なので開示はできない。今後、検討したい」と答えるのみだった。

このように、自治体の貴重な収入源である固定資産税は、時代に合わなくなっても、役所が扱いきれないことがわかっていても、一方的に税額を決めて納めさせることを変えようとしない。少子高齢化で地方の衰退がはっきりしている今、硬直的な制度が国民生活の足かせにならないよう、見直す時期に来ている。

松浦 新 朝日新聞記者

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まつうら しん / Shin Matsuura

1962年愛知県生まれ。東北大学卒業後、NHKに入局。1989年朝日新聞入社。東京本社経済部、週刊朝日編集部、特別報道部、経済部などを経て、2017年4月からさいたま総局。共著に『ルポ 税金地獄』『ルポ 老人地獄』(ともに文春新書)、『電気料金はなぜ上がるのか』(岩波新書)、『プロメテウスの罠』(学研パブリッシング)ほか。

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