「ネット通販」にすがるアパレルの密かな苦悩 大型モールに頼らず生き残る方策とは?

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一方、そこでしか買えないものを扱うサイトは、大手モールに出店しないため、消費者との接点は少なくなるものの、モール側のルールではなく、自分たちのこだわりに基づいて運営を行っています。

代表的な例を挙げると、国内では「土屋鞄製造所」「北欧、暮らしの道具店」、海外では腕時計の「SHINOLA」などが該当します。私が代表を務める「ファクトリエ」も、その1つです。

実店舗では「試着」しかできない

「ファクトリエ」の場合、商品は直営のオンラインサイトでしか購入できません。直営4店、各地域の提携48店でサンプル品の試着をすることができますが、そこに行っても商品を買って帰ることはできず、iPadで商品をご購入いただいています。

われわれがこだわっているのは、流通のプロセスで不要なものを削ぎ落とし、製造から販売までをシンプルにつなぐことです。実店舗を構えないのも、在庫の管理コストを抑えるためです。

消費者の目に留まる機会は大手モールよりも少なくなるため、ブランドの理念を魂を込めてコツコツと伝えていく活動が大切になります。具体的には、SNSでお客様とつながったり、提携工場にお客様を招待するイベントを開催したりしながら、ブランドへの愛着を深めてもらっています。

その結果、販売している商品の価格は、男性のシャツで1万3000円弱、Tシャツで7000円弱とけっして安価とはいえませんが、創業以来4年連続、売上高は対前年比200~400%の伸び率で、営業黒字で成長し続けています。

実際、私たちのサイトを訪れる方たちは「スーツ」「シャツ」といったファッション関連の検索ワードではなく、 ブランド名の「ファクトリエ」というワードで流入されているケースがほとんどです。

今は、消費者に認知されるだけではものが売れない時代です。認知度の高い有名タレントさんが着た服よりも、認知度は低くてもファンの数が多いタレントさんの着た服のほうが、売り上げにつながりやすいという傾向があります。

先日、友人に出資者しか入れない会員制の飲食店へ連れていってもらいました。限られた人しか利用できないのにもかかわらず、つねに予約でいっぱいだそうです。私が新たに会員になることもできません。それでも、他で代替できない価値を提供しているからこそ、これだけのファンを獲得しているのでしょう。

ECも同様で、コアに対してアプローチを図るために必要なのは、狭く・濃く・深いコミュニケーションを取りながら、草の根でファンを増やしていくことです。スピーディに多大な利益を生み出すのは難しいかもしれませんが、顧客一人ひとりとのつながりは強固であり、口コミで輪が広がっていく効果も見込めます。世界に発信することで、マーケットを広げていくのもひとつの手でしょう。

マスに対してアプローチを図るのか、コアに対してアプローチを図るのか。Web上に膨大なトラフィックが流れているなか、どちらにおいても大切なのは、自分たちの武器を明確にすることです。

使いやすさなのか、安さなのか、品質なのか、世界観なのか。伝えたいメッセージが明らかになっていれば解決すべき課題も自ずと見つかり、それをクリアしていくことで未来は切り開かれていくはずです。

山田 敏夫 ファクトリエ代表

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やまだ としお / Toshio Yamada

1982年熊本県生まれ。大学在学中、フランスへ留学し、グッチ・パリ店で勤務。卒業後、ソフトバンク・ヒューマンキャピタル株式会社へ入社。2010年に東京ガールズコレクションの公式通販サイトを運営する株式会社ファッションウォーカー(現:株式会社ファッション・コ・ラボ)へ転職し、社長直轄の事業開発部にて、最先端のファッションビジネスを経験。2012年、ライフスタイルアクセント株式会社を設立。2014年中小企業基盤整備機構と日経BP社との連携事業「新ジャパンメイド企画」審査員に就任。2015年経済産業省「平成26年度製造基盤技術実態等調査事業(我が国繊維産地企業の商品開発・販路開拓の在り方に関する調査事業)」を受託。年間訪れるモノづくりの現場は100を超える。

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