岡田准一が敬服する「降旗&木村」の深い魅力 高倉健作品手掛けた名コンビが「追憶」で復活

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日本を代表する俳優たちが出演を熱望するのは、降旗、木村両コンビが歩んできた経歴が映画の歴史そのものであり、多くの伝説を生み出してきたからだ。では、ふたりはどのような映画人生を歩んできたのだろうか?

降旗康男監督は1934年生まれ。1957年に東大文学部仏文科を卒業後、東映東京撮影所に入社。高倉健とは、彼が出演した美空ひばり主演映画『青い海原』に助監督でついて以来、半世紀近くにわたる付き合いがあった。

高倉健は、著書『あなたに褒められたくて』(集英社文庫)の中で、降旗監督について「持って生まれた、人の上に立たされる徳みたいなものがあるんじゃないですかね。(中略)出身地が松本で、松本藩のお殿様の血をひいていると聞いていた」と書いている。穏やかな人柄で、目立つことをよしとせず。撮影現場に初めて足を踏み入れた者は、奥で静かにたばこを吸っている降旗監督には気付かずに、「現場で怒鳴り声をあげる木村大作キャメラマンが監督なのだろう」と勘違いしてしまったという話は枚挙にいとまがない。

大所高所で現場を見ている降旗監督

4月に都内で開かれた完成披露会見で、撮影に応じる出演者と降旗監督(右端)、木村キャメラマン(左端) (筆者撮影)

『鉄道員(ぽっぽや)』に出演した吉岡秀隆がその話を裏付ける。「あの時は木村さんが取り仕切っていて、降旗監督がどこにいるのかさえ分からなかった。どこからともなく、(監督の)ヨーイ、スタートという声があって。でもカット、オッケーというのは(キャメラマンの)木村さんでしたけど。だから今回、演技や動きの指導をしてもらい、初めて降旗監督の声を聞いたような気がするんですが、『細かいことは、大ちゃん(木村キャメラマン)に聞いて』と言うんです。ものすごく二人が信頼しあっているんだなと思いました」。

木村の著書『誰かが行かねば、道はできない』(金澤誠との共著、キネマ旬報社)では、そんな木村・降旗の関係性を「『駅 STATION』の撮影当時、読売巨人軍は藤田元司監督、王貞治助監督、牧野茂ヘッドコーチの3人を首脳に置いたトロイカ体制をとっていた。降旗さんは“王助監督でお願いします”と言ったよ」と説明している。

「降旗さんはほとんどこだわらないよ。それで、“やったことの全責任は自分がとります”というタイプの人で、“変わったからと言って何ほどのものだよ。たかが映画じゃないか”という境地にいる人だと俺は思うんだ」(同著より)。

さらに先述の高倉健の著書『あなたに褒められたくて』にも、降旗監督の演出法が記されていた。

「だからといって、人を突き放しているのではなくて、俳優のことも、小道具のことも、大道具や照明のことも、衣装のことも、きちっと見てくれているんです。(中略)認めてくれるから、それぞれの人が、それぞれの場でよりよいものを求めて、必死で駆け回る。(中略)映画ができあがると、一人一人の努力が、きちんと画面の中に込められているんです。あの人の映画に参加できた人は、どのパートの人間でも、自分の今後の行く先に灯りをともしてもらったような気持ちになるんじゃないでしょうか」。

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