企業の投資を促すために、必要な政策とは? 国内銀行の貸出状況からわかる、アベノミクスの限界

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円安是正と実質所得増加による着実な成長を

政府は7月の月例経済報告で、景気の基調判断を「着実に持ち直しており、自律的回復に向けた動きもみられる」とした。設備投資の判断を「おおむね下げ止まっており、一部に持ち直しの動きもみられる」とし、4カ月ぶりに上方修正した。しかしこの判断は、設備投資の増加が建設や不動産など一過性のものに依存していることを軽視している。

設備投資の判断については、「平成25年度の年次経済財政報告(経済財政白書)」の判断のほうが適切だ。すなわち、同白書は、「アベノミクス」の効果で、消費者や企業のマインドが改善し、景気が持ち直したとしているものの、設備投資については、「低水準で回復力も弱いものにとどまっている」と見ている。そして、設備投資を増加させるために、「大胆な金融緩和によって実質金利を低下させる」ことと、成長戦略の実施などで「企業の期待成長率を引き上げることが重要」としている。

ただし、この処方箋の基本になっている認識において、製造業と非製造業のウエイトをどう考えているかは、明らかでない。

すでに述べたように、製造業に国内設備投資を期待するのは難しい。今後の設備投資は、非製造業を中心に考えるべきだ。これは内需なので、円安はマイナスに効く。したがって、円安を抑制し、原材料価格や電気料金の高騰を抑えることが必要だ。

さらには、税財政システムを通じて円安利益の再配分をはかり、賃金所得を増加させることも考えられる。設備投資を増加させるために投資減税などの法人税減税が必要と言われるが、本当に必要なのは、円安によって得た利益に課税することなのだ。このような政策を行ってこそ、非製造業の継続的な設備投資増加を実現できるだろう。

週刊東洋経済2013年8月10-17日合併特大号

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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