メイ英首相が突然の解散総選挙に動いた理由 再び「絶対に負けられない戦い」に挑む

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4月29日のEU首脳会議(当然英国は不参加)で離脱方針が確認された後、離脱交渉が5月中にスタートすると言われる。6月初旬に足場を固められれば交渉遅延などの悪影響は限定的で済むとの政治判断なのだろう。

実際、時間は切迫している。筆者が『英国EU離脱で最も影響を受ける国はどこか』でも論じたように、離脱協定について合意しても、これを欧州議会や加盟国議会が承認する時間も勘案すれば真の期限は2018年秋頃と目されており、実質的には1年半しか交渉期間がない。もっと言えば、今年9月のドイツ連邦議会選挙の決着がつくまでは実質的な交渉が進まないとまずい、という声すらある。こうした状況下で、内政の調整で時間を浪費すれば、「ノーディールで離脱」という最悪の結末になりかねない。

とはいえ、タイムスケジュールは昨年6月の離脱決定後からおおむね見えていた話だ。ハードブレグジットを志向すれば、内政の混乱が付随することも予見されたはず。離脱規定を定めるリスボン条約第50条は発動したら最後、不可逆的な交渉が始まるというのも事前に分かっていた。最も根本的な疑問は、「それならば離脱通告を行う前に解散を宣言するべきだったのではないか」というものだ。

「通告してから信を問う」という流れは、離脱判断自体がいかに"行き当たりばったり"であるかを象徴していると言わざるを得ない。なお、総選挙の方針に関し欧州委員会は聞かされていなかったとの報道もある。もちろん、欧州委員会に報告する義務はないが、後述するように、離脱交渉自体に大きな影響を持つ政治判断だけに、やや驚きである。

前首相同様に「負けられない戦い」を仕掛けた

総選挙を巡るシナリオは、(1)与党大勝、(2)現状維持、(3)与党敗北の3つである。結論から言えば、メイ首相にとって(1)以外は「負け」である。「負け」の場合は離脱交渉に甚大な影響が及ぶ。その意味で勝率は高いながらも、今回の総選挙はメイ政権にとって絶対に「負けられない戦い」であり、負けることは恐らく想定されてもいない。だが、思い起こせばキャメロン元首相も同じことを思ってEU離脱を国民投票に問うたはずである。国家の命運を左右する話をむやみに世論へ投げてはいけないことは昨年、痛いほど学んだはずなのに、同じことが繰り返されようとしている。

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