「犬肉」の消費が急増するインドネシアの衝撃 バリ島だけで年間7万頭が食用になっている
経済成長に合わせて需要も増加
ここはインドネシアの首都、ジャカルタの東部にあるレストラン。パルリン・シティオは空になった皿を前に満足そうにいすの背にもたれかかった。「リチャリチャ」という、スパイスを効かせた犬肉のインドネシア料理を食べ終わったところなのだ。
携帯電話販売業を営むシティオは言う。「最低でも週に1度は食べる。ここのはおいしいし、新鮮なんだ。体が温まるし、血行がよくなる」。
犬の肉を食べる習慣のある国はインドネシア以外にもいくつかあるが、どこの国でも犬肉ビジネスの実態はあまり知られておらず、消費に関する信頼に足るデータはほとんどない。だが、レストラン経営者や精肉業者、研究者も動物愛護活動家も、インドネシアほど犬肉食が盛んな国はないという点で意見は一致している。
韓国や中国といったほかのアジア諸国とは対照的だ。これらの国々では生活水準が上がってペットを飼う人が増え、動物愛護への意識が高まるなかで犬肉食離れが進んでいる。
インドネシアはといえば、経済成長がまったく逆の効果をもたらすこともあるという好例だ。もともと犬肉食に抵抗感がなかったうえに、経済発展のおかげで犬肉は多くの人々にとって手の届く食べ物になったと、事情に詳しい人々は言う。
「インドネシアだけでなく東南アジア全域で見られるパターンだ」と、獣医学の専門家であるエリック・ブラムは言う。ブラムはバングラデシュの国連食糧農業機関(FAO)で越境動物病緊急センターのチームリーダーを務めており、インドネシアにも9年間、駐在していた。
「東南アジア諸国の一部では、市場へのアクセスが広がり可処分所得が増えるとともに、(犬肉の)需要も伸びた。犬への需要が伸びれば、生産もどんどん増え、取引も増える」