「犬肉」の消費が急増するインドネシアの衝撃 バリ島だけで年間7万頭が食用になっている

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ジュニアトゥル・シリトンガの一族は、ジャカルタで1975年から犬肉ビジネスに携わってきた。1週間に食肉処理する犬の数は約20頭。肉はジャカルタ東部の青空市場で売るほか、韓国料理店にも卸しているという。犬はジャワ島の複数の業者から1頭約15ドルで仕入れ、肉を500グラム当たり約2ドルで売っている。

「(犬肉は)牛肉よりも安い」と彼は言う。「犬肉食は地元民族の伝統だ。たいていはキリスト教徒だが、イスラム教徒も薬効を期待して犬肉スープを食べる」

狂犬病が拡散するリスクも

シリトンガの食肉処理場は、ぼろぼろの2階建ての建物の1室だった。殺される前の犬が入れられている部屋には悪臭が充満している。

ジャカルタでは、肉屋が自ら犬を殴打しているケースも(写真:Kemal Jufri/The New York Times)

犬は1頭ずつ、1階にある豚小屋と背中合わせの部屋に連れてこられる。犬は頭部を木の棒で殴打され、意識を失ったところを今度は首を刃物で切りつけられる。血もバケツに集められ、肉と一緒に食材としてレストランに卸される。

ジラーディによればバリ島での犬の扱いはさらに残酷だ。犬は絞め殺されてすぐに解体される。首を絞めるほうが肉が軟らかくなると考えられているのだ。麻袋に入れて殴り殺す場合もあるという。

「インドネシアにおける犬肉ビジネスの残酷さは、韓国やベトナム、フィリピンで長年、反犬肉食キャンペーンをやってきた私にとってもショックなほどだ」と、バリ島に本拠を置く「動物のための変化財団」の共同創立者であるロラ・ウェバーは言う。

インドネシアにも動物の残酷な扱いを禁じる法律はあるが、対象は家畜だけで犬や猫、野生動物は適用外だ。動物愛護団体も、残酷さを理由に犬肉食に反対するのはあきらめるしかなかった。理由は「誰も気にもかけないから」だとフランケンは言う。

その代わり、規制のない野放しの犬肉流通が狂犬病の拡大の原因になりうる点に焦点を絞ることにしたと彼女は言う。バリ島でもほかの地域でも、狂犬病は古くからの大きな問題だ。

「犬肉のヤミ市場が存続するかぎり、インドネシアの狂犬病問題は解決しないだろう」と、アンソニーも言う。

地方自治体は狂犬病の予防接種を実施してはいるが、業者のトラックが犬を運び込むのを止めることはできないと、ジャカルタ市の家畜・動物の衛生問題部署を率いるスリ・ハルタティは言う。

「グレーゾーンの真ん中で動きが取れない状態だ」とハルタティは言う。「伝統文化と動物を愛する人々の対立の構図があり、介入しようにも(法的な)根拠はない」

シリトンガは狂犬病のリスクをほとんど気にかけていない。犬にかまれたことは何十回もあると彼は言う。

おまけに犬をかわいいと思ってさえいる。彼にはルナと名付けたペットの犬がいる。

「この子は食用じゃないよ」と彼は言った。

(執筆:Joe Cochrane記者、翻訳:村井裕美)

(c) 2017 New York Times News Service

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