フィンテックで何が起こるか知っていますか 「口座格差」が銀行再編を引き起こす

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多くの銀行は、個人から預金を集めている。そうして集めたおカネを法人に貸し出したり、国債など有価証券に投資することで運用したりする。このおカネの流れと事業のモデルは昔も今も変わらない。特に個人による預金の比率が高い地方銀行ほど、このモデルが経営の軸になっていると言える。

そんな中で、預金口座の使い勝手が変わり、「個人がどこにいくらおカネを置いておくか」が変わってしまうとどうなるか。個人による預金量が増えなければ、当然、銀行の事業規模は大きくはならない。逆に個人預金が流出してしまうと、事業規模を縮小せざるをえない。当然と言えば当然だが、銀行の未来を考えるうえで、「預金」は必要不可欠な存在なのである。そして、預金が不安定になれば、それを軸にせざるをえない銀行ほど大きな影響を受けることになる。

デフレが後押しした「おカネの行く先」の変化

もちろん、「日本では、個人が『預金』以外の金融資産を積極的に選ぶことなんてない」という指摘もあるだろう。

わが国では、今でこそ改善されてきたとはいえ、長期間にわたって物価が持続的に下落していくデフレが続いていた。デフレで物価が下がれば、「目減りしない預金」の価値は相対的に上がる。つまり、デフレのもとでは、預金は「資産運用の合理的な選択肢」の1つだったと言えるのだ。だからこそ、「預金が流出する」などということは考えられなかったし、国が積極的に「貯蓄から投資へ」と叫んだところで、そう簡単に投資へとおカネがシフトしなかったのも当然である。

しかし今、環境は確実に変わってきている。こうした状況に前後して出てきたのがフィンテックであり、特に注目すべきなのが、利用者の中での「プリペイド」と「預金口座」の位置づけの変化だ。

プリペイドで多くの人に身近なのは、たとえば首都圏なら、鉄道系のプリペイドカードであるJR東日本のスイカ(Suica)や主に首都圏の私鉄・地下鉄などで使えるパスモ(PASMO)だ。現金でこうしたプリペイドカードを購入し、残額が少なくなってくればチャージするというのは、すでに多くの方が日常的に経験しているのではないか。

こうして普段、われわれが何気なく利用しているプリペイドだが、安心して使うには、1つ大きな条件がある。それは「急激なインフレ環境下ではない」ということだ。

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