日本の大手企業とエンゲル係数の意外な関係 庶民が飢えても大手企業は儲かる?

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エンゲル係数が減少傾向にあった時分でさえ、日本は農産物や食料品に対して保護主義的な政策を取り、国内の消費者は他国よりも多額の所得を食費に回すよう強いられていた。

OECD(経済協力開発機構)の統計によると、円安進行や消費税率引き上げの前である2012年の時点で、日本人は家計の13.7%を飲食費に費やしていた。これは英国の9.3%や米国の6.3%をはるかに上回る。この数字には各種調整が加えられているため、前述の総務省統計とは異なっている。

安倍政権が日本人の生活水準を上げ、経済成長や消費支出増を実現したいならば、米国が撤退したとはいえ、TPP(環太平洋経済連携協定)協議で約束した輸入関税引き下げに踏み切るべきだ。そして、JA(農業協同組合)を独占禁止法の適用外とする規定も撤廃すべきだろう。

以上のいずれの措置にも及び腰である事実は、安倍政権の優先事項がどこにあるのかを示している。

救済対象はあくまで企業

食料価格が上昇すれば企業の利益も増える。企業の経常利益の対GDP(国内総生産)比は過去最高の6%に達している。経常利益には、円安になれば自動的に増える海外関係会社の収益が含まれている。

日本の最大手5000社の直近の収益状況を見ると、国内での収益を反映する営業利益が金融危機前の2007年比で5%近く減っている一方、経常利益は2007年より約15%増えている。その差の要因は海外での利益拡大である。

つまり、“日本株式会社”は、国内が飢餓状態になっても巨額の利益を上げる方法を学んでいるといえる。

アベノミクスは日本株式会社を救済した。しかし、小口のFX(外為証拠金取引)を行う個人投資家である「ミセスワタナベ」に象徴されるような、主婦やサラリーマンは、救済の対象ではなかったようだ。

週刊東洋経済3月25日号

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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