「同一労働同一賃金」、本当の狙いは何なのか 実は非正規処遇の改善のさらにその先にある
安倍晋三政権は「働き方改革」を最重要課題に位置付け、「同一労働同一賃金」の実現を目玉政策に掲げている。2016年12月20日には政府によってガイドライン(指針)案が示された。今後、それを基に法制化が行われるとともに、関係者の意見や国会審議を踏まえて、ガイドラインも最終的に確定するとしている。
そもそも現政権が同一労働同一賃金を掲げたのはなぜか。字面通りには、社会問題化されてきた正社員と非正規社員の二重構造にメスを入れ、非正規の労働者の処遇改善を行うためだ。もっとも、このわかりづらい用語がスポットライトを浴びることになった政治的なタイミングもまた、見落とせない。首相が同一労働同一賃金の実現への取り組みを表明したのは2016年1月の施政方針演説だった。
アベノミクスが失速のリスクに晒され、2015年秋に「一億総活躍社会」というスローガンを打ち出して、仕切り直しを図った流れを受けたものである。重点政策としてきた賃上げの成果が十分でない中、最低賃金引き上げとの両輪で取り組み、政権支持につながる経済好循環を後押しする狙いがあったといえるだろう。
会社人の総合能力が評価されてきた
ここで同一労働同一賃金が政策課題になることは、とりも直さず、それがわが国では実現していないことを物語る。では、「同じ仕事をすれば同じ賃金を払うべき」という、ある意味で当然ともいえるルールが、日本で成立してこなかった理由は何か。
原因は日本の雇用システムの特異性に求めることができる。その基本は、仕事内容や勤務地を定めず、会社という運命共同体の一員になるというものだ。この場合、企業における従業員のランクを決めるのは、その時についている仕事よりも、企業特有の技能や社内人脈から構成される、いわば「会社人」としての総合能力だ。
このため賃金は仕事よりも「人」につく。一方、パートや契約社員はあくまで一時雇用が建前で、賃金は就いている仕事で決まる。この結果、そもそも正社員には、同一労働同一賃金が成り立たない。正規・非正規間では賃金の決め方自体が異なり、当然、処遇の均等が成り立つ術もない。
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