宇宙飛行士が鍛える、「上司にモノ申す」技術 「侮れない部下」が、チームを引き上げる

✎ 1〜 ✎ 10 ✎ 11 ✎ 12 ✎ 最新
拡大
縮小

宇宙開発は失敗がつきものだ。ロシアは文化として、時に個人の責任を追求することがあり、日本と似ている点があるという。だが、NASAはたとえ失敗した場合も、システムを改善し同じ失敗を繰り返さないことに焦点を当て、ヒアリングを行う。「誰かの責任を追及するためだと正直な意見が出ない。あくまで改善のために、率直な意見を引き出していくのです」(古川)。

逆に成功したときはどうだろう。リーダーは売り上げが上がったときや契約が成立したときなど、たとえ部下の働きであっても、自分の手柄にしがちだ。だが優れたリーダーは、決して自分ひとりの手柄にはせず、フォロワの貢献を讃える。宇宙飛行士の船長もそうだという。「リーダーの主語はつねに『IじゃなくてWe』なんです」(古川)。

侮れない、フォロワが必要

古川飛行士は小学生の頃から野球少年だった。中学2年からのポジションはキャッチャー。「個性の強い投手ばかりで、『俺に指示を出すな』と出すサイン全部に首を横に振る(笑)」古川は投手に好きな球を投げさせ支えながら、高校2年からはキャプテンとしてチームを率いていった。

宇宙飛行士チームでも、古川は「キャッチャー」のような存在だ。つねに全体を見守り、補佐しながら「ここは」という点を見逃さず、チームを動かしていく。

激しく自己主張はしないが、大きな仕事を成し遂げ、存在感を放つ。宇宙飛行士候補者に選ばれてから本番まで12年。その間、同期の星出彰彦、山崎直子宇宙飛行士が先に宇宙に飛んだが、技術者が大半を占める宇宙飛行士集団の中で壮絶な努力を重ね、ついにロシア宇宙船フライトエンジニアという超難関資格を手にし、本番でその大役を完璧に果たした。

「着実に実力を積み重ねる”継続力”は、ほかのベテラン飛行士にも影響を与えているのではないか」と毛利衛氏は語っていた。科学者として宇宙実験が得意なうえに、宇宙船の操縦を習得し、TVやCMなど広報イベントでも人気を得た。実は「侮れない存在」だと。

こうした古川氏の力の源は、”くみ取る力”だと関係者は証言する。「どんな仕事を与えられても丁寧に質問して成功イメージを把握し、100%以上の成果を出す。優秀な宇宙飛行士たちでも得手不得手がある。ここまでできる人はなかなかいない」。

こんな人がチームにいてくれたら最高だ。その真摯な姿勢がチームの雰囲気を気づかぬうちに変え、チーム力をも上げていく。プロジェクトを成功に導くか否かは、こうした「侮れないフォロワ」の存在にかかっているのかもしれない。

(撮影:今 祥雄)

 

林 公代 宇宙ライター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

はやし きみよ / Kimiyo Hayashi

宇宙ライター。神戸大学文学部英米文学科卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経て2000年からフリーに。20年以上にわたり宇宙飛行士や宇宙関係者へのインタビュー、NASA、ロシア、日本でのロケット打ち上げや宇宙関連施設、皆既日食などの取材を続ける。著書に「宇宙飛行士の育て方」(日本経済新聞出版社)、「宇宙就職案内」(筑摩書房)、「宇宙へ『出張』してきます」(古川聡宇宙飛行士らと共著、毎日新聞社)、「宇宙の歩き方」(ランダムハウス講談社)など多数。http://gravity-zero.jimdo.com/

 

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT