職場でありがちなのは、「部下から意見を言われたり間違いを指摘されたりすれば、上司のプライドを傷つけるのではないか」という部下側の憶測だ。
「上司にそんなプライドがあるとすれば、それは間違ったプライドです」。古川飛行士はにっこり、かつ毅然として言う。「それは上司の意見に対する反対意見であって、なんらその人の人格を否定するものではないのです。”意見”と”人格”は切り離して考えないといけないですね」。
反対意見を言っても、人格は決して否定していない。「これを混同すると正しいことでも言えなくなる。お互いの認識を変えると、チームがより建設的に生産的になる」(古川)。
もちろん、リーダーに進言するためには、フォロワもその発言を聞いてもらうに足る実力をつける努力が求められる。また、古川がつねに気をつけるのは、「全体の状況をよく見て”優先順位”を考えること」だ。
異常を見つけたときも、今、言うべきか、後でもいいのかという判断力を磨く。全体の流れの中で、今、最優先されるべきなのはどの作業か。リーダーが何をしているか。それを見たうえでやはり伝えるべきことであれば、リーダーがどんなに忙しそうでも、きちんと伝えるべきだという。つまり「言うべき内容と、伝えるタイミングを“研ぎ澄まして”いく」のだ。
こう書くと、「上司に意見を言えるほど、部下が知識や経験を持つのは難しい」と思うかもしれない。実は筆者もある講演をした際に、この点をある日本企業の方から指摘された。
だがJAXAの山口孝夫さんは「部下は無能ではない。ある場面では上司より深く仕事をし、現場のことをわかっているはず。何も言わないフォロワのほうが一緒にいて安心できない。特に安全性が問われる業種や、生き残りが問われる厳しい業種では、上司も部下も一蓮托生。部下の発言を受け入れるか受け入れないか、上司のリーダーシップが問われます」と主張する。
優れたリーダーの主語は「We」
上司と部下の関係では、誰が「責任」をとり、「手柄」をとるかも気になる点だ。
重要操作は必ずリーダーとフォロワなど「チームで仕事を行う」ことが徹底されているNASAでは、ある操作が失敗した場合でも、個人の責任にはせず「運用体制」を問うという。
「船外活動やロボットアーム操作など難しい操作では、必ず主担当と副担当をつけてダブルチェックし、確実な運用体制を考えるのがリーダーの役割です。もし操作に失敗した場合には、個人の責任を問うより、人の割り当て方やチェックの仕方を問い、未然に操作ミスを防げなかった運用体制が悪かったと考えるのです」。古川はそう説明する。
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