最高速度を変えず「新幹線が速くなった」ワケ 東京-博多間が最大で7分短縮

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そこで、今回の改正では「足の遅い」700系は「こだま」専用という割り切りが実施されることになった。一方で速達型の「のぞみ」だけでなく、準速達型の「ひかり」も東海道区間では最高時速285キロ運転が可能となり、起動加速も速くなる。

これは、N700Aの増備が進んだことによって実現した。3月のダイヤ改正の時点以降では、N700Aタイプの編成数は136編成となり、定期「のぞみ」164本、定期「ひかり」65本の全てをカバーすることができるようになったのである。昨年2016年3月のダイヤ改正で「のぞみ」の164本は全てN700Aタイプに統一されている一方で、「ひかり」に関しては700系での運用が残っていた。700系は遅くとも2019年度までには東海道区間から引退すると言われているが、この春以降は「こだま」の運用だけということになる。

地震復旧や対策も進む

「ほんの少し」速くなるということでは、2016年4月の熊本地震の影響で一部徐行運転が続いていた九州新幹線の熊本-新八代間が、今回のダイヤ改正で通常の運転に戻った点も挙げられる。熊本総合車両所の付近が直下型地震に襲われて被災しており、毎晩午前0時から6時の短い時間帯を使って保線を行ってきたのだが、このたびようやく徐行が解除できるようになったのだ。これによって「みずほ」「さくら」「つばめ」ともに、この区間の所要時間が約5分短縮された。

東海道新幹線の脱線防止ガード(撮影:小佐野景寿)

このように「ほんの少し」速くなった新幹線だが、同時に「脱線・逸脱防止」の対策も新たに追加されることとなった。まず、東海道新幹線については、地震被害の可能性の高い箇所を中心に「脱線防止ガード」の設置が進められてきたが、今回2017年度から改めて設置対象を全線に拡大して工事が続けられることとなった。

また、山陽新幹線の場合は東海道とは方式の異なる「逸脱防止ガード」の設置が進められており、新大阪-姫路間では計画通り設置が完了している。姫路以西での設置も優先順位の高い区間で進んでいるが、2017年からは設置対象区間をほぼ2倍に拡大していくこととして、改めて整備計画が発表となっている。

所要時間の短縮も、地震対策も単年度で見れば「地味な改善」かもしれない。だが、こうした「カイゼン」をコツコツと続けてきたところに、日本の新幹線技術の現在があるというのもまた真実なのである。

冷泉 彰彦 作家

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れいぜい あきひこ

1959年生まれ。東京大学文学部卒。米国在住。『アメリカは本当に「貧困大国」なのか』など著書多数。近著に『「上から目線」の時代』(講談社現代新書)。

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