ポスト京都議定書 セクター方式に懸ける電力、鉄“悪役”の論理

ポスト京都議定書 セクター方式に懸ける電力、鉄“悪役”の論理

 電力、鉄鋼といえば、「重厚長大」の代表として日本の財界の本流に座り続けてきた業界だ。だが、こと温暖化対策に関しては、CO2の大排出源として、すっかり悪役になった感がある。この二つの業界で、2006年に国内で排出されたCO2の4割近くを占めている。

その“悪役”が何としても避けようとしているのが、ポスト京都議定書の枠組みで、温暖化効果ガス排出枠の上限(いわゆるキャップ)を設定されることだ。政府がキャップを設定し、企業に割り当てる方式の導入を何としても避けるべく、総力を挙げた反論を続けている。

キャップ導入に業界首脳が猛反発

「とにかくキャップはやめようじゃないか、と。そうしたことを10年、20年も長期にやると、経済が“窒息死”する」。5月下旬、電力の業界団体である電気事業連合会の定例会見で排出量取引に質問が及ぶと、勝俣恒久会長(東京電力社長、ともに当時)は抵抗感をあらわにした。

6月9日に発表された「福田ビジョン」について、電事連は原子力や再生可能エネルギー拡大を記したその内容に一定の評価を示しつつ、「強制的な排出枠の設定やオークション方式の導入は引き続き反対である」とくぎを刺した。

電事連の森本宜久副会長(東京電力取締役)は「国による強制キャップは、企業や国の活力を絶対に阻害すると思う。オイルショック時の需給調整は緊急避難的な措置。温暖化問題は長い取り組みで、(排出量削減につながる)革新技術をどう誘発するかといったことが大事だ」と強調する。

電力業界ではオイルショックの経験から電源構成の分散化を進め、火力比率を引き下げてきた。実際、構成変化と発電効率の向上などで、1970年代以降、消費電力量が3・4倍に増加する一方、CO2排出量は2・4倍に抑制。それでも、現状の発電所から排出されるCO2の割合は日本全体の約2割強(表参照)と、際立つ存在に変わりはない。

電力各社にとっては原子力の稼働率引き上げがCO2削減のための有力手段だが、東京電力の柏崎刈羽原発が昨年の中越沖地震で全面休止。温暖化問題の議論が高まる中で、業界の主導役であるはずの東電が、火力依存をいっそう高めるという皮肉な状況を強いられている。

鉄鋼各社が加盟する日本鉄鋼連盟も、キャップには断固拒否の姿勢を貫いている。6月の定例会見で宗岡正二会長(新日本製鉄社長)は、福田ビジョンについて「決意表明としては評価する」としつつ、排出権取引については「どうやってキャップを衡平にかけていくのか、どう決めていくのか」と疑念を呈した。

鉄鋼連盟の市川祐三専務理事は「技術的な条件が大きく変わらないかぎり、キャップの導入は生産活動の水準を決めることに等しい。(割り当ての過程で)どの産業を優先するかという議論になるが、それを行政が本当に判断できるのか」と語る。

いったんキャップを認めてしまえば、EU−ETSのフェーズ3で検討されているようなオークション方式の適用を求められる、との危機感が鉄鋼業界にはある。オークションは官の介入を避けるという点からは、一つの解決策だ。だが、企業側から見れば毎年必要な排出権の費用がいくらになるか、また、排出権の取り合いになるので、そもそも確保できるかも事前にはわからないというデメリットがある。

「これでは企業は経営計画を立てられず、つねに不安定な経済活動を強いられる。炭素リーケージが発生する可能性が高い」(市川専務理事)。炭素リーケージとは、CO2排出削減義務がある国から、削減義務がない発展途上国へ生産が移転したり、途上国からの輸入に切り替わったりすること。この場合、トータルでのCO2は削減されず、むしろ増える可能性があるという見方だ。

 他国との競争がなく、国内でも事実上の地域独占である電力業界と異なり、鉄鋼業界は厳しい国際競争にさらされている。右グラフにも示されているように、粗鋼生産2000万トン以上(06年)の鉄鋼メーカーのうち、京都議定書の排出制約を受けるのは、新日鉄、JFEスチール、それにアルセロール・ミタルの3社のみ。このうち、ミタルも実際に制約がかかるのは欧州での生産分だけだ。

すでに、新日鉄が傘下のウジミナス(ブラジル)が進めている新製鉄所建設への参画を検討しているほか、JFEもブラジルでの製鉄所建設へ事業化調査を開始している。

JFEホールディングスの山崎敏邦副社長は「日本での生産が最も効率的だが、温暖化対策のコストが上昇すれば、ブラジルやタイへの移転を検討せざるをえない」という。キャップ導入は日本でのものづくりの基盤に直結するというのが鉄鋼業界の立場だ。

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