ポスト京都議定書 セクター方式に懸ける電力、鉄“悪役”の論理

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「セクター別」の提案で局面の打開を狙う

しかし、ただキャップを拒否しているだけでは“悪役”の名を返上できない。電力、鉄鋼が中心となり、ポスト京都の枠組みとして導入を狙っているのが、セクター別アプローチである。

鉄鋼や電力などセクターごとに排出削減の可能量を算出し、積み上げることで各国ごとの目標数値を策定する。同時に、先進国の技術を途上国に移転することで、エネルギー効率の改善を図り、世界的にCO2排出量を削減させる。

特徴として、1世界的に大幅な削減ポテンシャル(火力発電で17億トン、鉄鋼で3億トン)がある、2取り組むべき課題が明確、3同一セクターで目標を設定するため、衡平性が確保しやすいなどが挙げられている。ただ、最大の特徴といえるのは、自分たちの削減目標を自分たちで設定する点だ。

セクター別アプローチは、97年に日本経済団体連合会が中心となって策定された、自主行動計画と表裏一体となっている。

同計画では、08~12年度のCO2平均排出量を90年度レベル以下に抑えることを全体目標に設定しているが、すでに06年度の実績は90年度比1・5%減と計画数値をクリア。削減効果が不明確で、第1フェーズ(05~07年)に至っては電力以外では軒並み排出量が増加してしまった、EU‐ETSとの比較でも優位に立っている点を、経団連は強調する。

セクター別アプローチを使った国際的な枠組みが、05年に米国の呼びかけによって、日・米・中など7カ国の間で始まった「クリーン開発と機構に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)」だ。現在、発電や鉄鋼など8分野の専門家が集まり、官民共同でセクターごとの省エネ・環境対策を進めている。

APPの最大の特徴は、米・中・印といった京都議定書では削減義務を持たない主要排出国が参加している点。したがって、参加国の対象8分野を合計した二酸化炭素排出量は、実に世界全体の53%に達する。

経済産業省のエネルギー白書は、日本の最新技術を主要国の石炭火力発電に転用すれば、削減量は13億トン(日本の年間排出量分に相当)になるとの試算を出した。

「APPが京都議定書に入っていないアメリカや中国、インドをカバーすることの意味は大きい。中国やインドの熱効率は低く、こうした改善には大きなポテンシャルがある」(電事連の森本副会長)。鉄鋼分野でも、日本の技術を参加国に導入できた場合の削減可能量は、年間1・27億トンに上ると試算されている。


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