村上春樹「騎士団長殺し」は期待通りの傑作だ

「文芸のプロ」は、話題の新作をどう読んだか

2017年2月24日、村上春樹氏の新作『騎士団長殺し』が発売された(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
2月24日の発売早々、「第1部 顕(あらわ)れるイデア編」「第2部 遷(うつ)ろうメタファー編」あわせて発行部数が130万部を突破している村上春樹氏の新作『騎士団長殺し』。全国で発売にあわせてカウントダウンイベントまで行われた「話題の新作」を、「文芸のプロ」はどう読んだか。
中上健次から江藤淳、吉本隆明、阿久悠まで、数々の評伝を綴ってきた文芸評論家の高澤秀次氏が、「ネタバレ」は最小限度にとどめつつ、今回の「読みどころ」を解説する。

次回作への期待がいっそう高まる力作

『1Q84』以来7年ぶりの複数巻にまたがる大長編、『騎士団長殺し』は、期待に違わぬ力作と言えます。

なおかつこの作品の成功は、世の春樹ファンの「次回作への期待」をいっそう高めるものとなるでしょう。今回の新作で作家は、明らかに新境地を切り開いたからです。

ここ数年、ノーベル文学賞の有力候補になっている村上春樹の作品の特徴を、まずは改めて考えてみましょう。

彼はほとんどマスコミに現れない作家ですが、若い頃のインタビューで、自身の「創作の秘密」を明かしたことがあります。そこで彼は「シーク・アンド・ファインド(seek and find)」という創作方法を自ら打ち明けています。

「シーク・アンド・ファインド」とは、どういうことか。文字通り、小説の主人公がつねに「何か」を探し、そして「見つけ出す」ということです。

そのときに重要なのは、探し当てるべき何かは「主人公にとっての失われた何ものか」でなければならないということです。そして、それを見つけ出したとき、主人公は「より深い喪失感」を味わうことになります。

<喪失―探索―発見―再喪失>。これが、従来の春樹作品の基本的な「物語的な枠組み」になります。

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