村上春樹「騎士団長殺し」は期待通りの傑作だ 「文芸のプロ」は、話題の新作をどう読んだか
次回作への期待がいっそう高まる力作
『1Q84』以来7年ぶりの複数巻にまたがる大長編、『騎士団長殺し』は、期待に違わぬ力作と言えます。
なおかつこの作品の成功は、世の春樹ファンの「次回作への期待」をいっそう高めるものとなるでしょう。今回の新作で作家は、明らかに新境地を切り開いたからです。
ここ数年、ノーベル文学賞の有力候補になっている村上春樹の作品の特徴を、まずは改めて考えてみましょう。
彼はほとんどマスコミに現れない作家ですが、若い頃のインタビューで、自身の「創作の秘密」を明かしたことがあります。そこで彼は「シーク・アンド・ファインド(seek and find)」という創作方法を自ら打ち明けています。
「シーク・アンド・ファインド」とは、どういうことか。文字通り、小説の主人公がつねに「何か」を探し、そして「見つけ出す」ということです。
そのときに重要なのは、探し当てるべき何かは「主人公にとっての失われた何ものか」でなければならないということです。そして、それを見つけ出したとき、主人公は「より深い喪失感」を味わうことになります。
<喪失―探索―発見―再喪失>。これが、従来の春樹作品の基本的な「物語的な枠組み」になります。
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