松下幸之助「一商人の心を失ってはならない」

経営の神様が問わず語りに語った経営の奥義

お客さんの後ろ姿に手を合わせた、そのときの気持ちを忘れたらあかん(写真:東洋経済写真部)
江口克彦氏の『経営秘伝――ある経営者から聞いた言葉』。松下電器産業(現パナソニック)の創業者である松下幸之助の語り口そのままに軽妙な大阪弁で経営の奥義について語った著書で、1992年の刊行後、20万部を売り上げるヒットになった。本連載は、この『経営秘伝』に加筆をしたもの。「経営の神様」が問わず語りに語るキーワードは、多くのビジネスパーソンにとって参考になるに違いない。

つねに一商人の心を忘れず

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この季節になると、池のコイもよう泳ぎまわるようになったな。ついこないだまでは、水が冷たかったせいもあるんやろうけど、冬の間はあまり動かんな。ようけ泳いでおるけど。うん? なん匹おるのか、わしは勘定したことないから知らんで。100匹ぐらいはおるんかいな。

たいていが、もらったものやけど、あまりたいしたもんはおらんようやな。それでも、ああしてコイが泳いでおる景色は、それなりにええもんや。

そういえば、あの池に1度、舟を浮かべようということで、舟、作ってもらったことあったなあ。あれ、どうしたかなあ? 最初作ったけど、少し長過ぎるというか、大き過ぎてな、これぐらいの大きさの池に合わんわけや。それで少し後ろを短くしてもらおうと。あれ、切ってもらったわな。それで浮かべたら、きみ、こんどはまるでお椀や。

まあ、とにかく乗ってみようかと。乗ってみたけど、わしは、舟をこいだこともないし、おまけに、そんな形になってしもうたから、櫓(ろ)でどないやっても、同じところをグルグル回るだけや。舟もかっこ悪いし、わしもかっこ悪い。みんな、大笑いやったな。きみも見とったやろ。

その舟、えっ? 物置にしまってある? どうもならんなあ。

まあ、それはともかく、昔、「会社が、いかに大をなすとも、つねに一商人の心を忘れず」というようなことを、言ったことがあるけど、実際に、こういうことは大事やね。

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