乙武洋匡「自分をようやく理解してもらえた」 中川淳一郎と語る「不寛容すぎる社会」の実像

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乙武:まあ、そんな小難しい話ではなく、私が発言する内容、私の存在そのものがすごく窮屈に思えたり、圧のように感じられたりという人が、「今だ!」とばかりにバッシングに回ったというだけの話かもしれませんけどね(笑)。

「弱者マウンティング」へのすり替え

中川:2013年に、銀座のイタリアンレストランで乙武さんが入店拒否されたことに憤慨して、ツイッターで批判したことが世の中を巻き込む騒動になったことがありましたが、その頃からですか。

乙武:そうですね。

中川:たぶん、あのとき初めて、乙武さんバッシングをやっていいという動きが出た。あのときって「障害者だったら、健常者が手助けして当たり前っていうふうに思っているんだろう」みたいな論調でしたよね。どう思いました?

乙武:文脈を踏まえずに、タイトルや表層的な部分だけで物事を論じる人が、いかに多いかということを実感させられました。私自身は、「車いすで入店できなかった」という事実のみに腹を立てたわけではなくて。たとえば、あのときの店主の物言いが、「いや、うちの店は、これこれこういう状況なので、申し訳ないけれども、また改めて食べに来ていただくことはできませんか」というような物言いだったら、「そうですよね。こちらも申し訳なかった。突然来ちゃって。またお伺いしますね」と、お互い気持ちよく終われていたと思うんです。

ところが、本当にぶっきらぼうな物言いで、「いや、うちはこういうスタンスなんでね」といかにも迷惑そうな態度で言われたので、「接客業として、それはないんじゃないの?」と感情を害したんですね。それは、車いすうんぬんみたいな話にすり替えられて、双方にバッシングの矛先が向いてしまった。私の感情的で大人げない書き方にも問題があったと反省していますが、もうちょっと丁寧に読んでほしかったなという思いもあります。

中川:違和感があったのは、あの件についてツイッターで乙武さんをたたいている人たちが「強者・弱者論」に執着していたことです。乙武さんがその強者とされる理由は、乙武さんにツイッターフォロワーが多いってだけなんです。あのイタリア料理店の店主のツイッターフォロワーは、たぶん数百しかいない。でも、乙武さんは数十万。「フォロワーが多い、影響力のある強者が、いたいけなイタリア料理店の店主を恫喝(どうかつ)した」って話になっちゃったんですね。ただの客と店の話にならず、いかに弱者ポジションをとるかという問題にすり替えられた。

乙武:そうですね。確かに、弱者というポジションをとると、以前は同情してもらえたり、優遇されたり、言葉は悪いですけれども、特典みたいなものが漏れなく付いてきた時代だったのかもしれない。私は、もう今の時代は、弱者ポジションをとっても損をすることが多い時代に突入してきたと思います。

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