乙武洋匡「自分をようやく理解してもらえた」 中川淳一郎と語る「不寛容すぎる社会」の実像

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乙武:理由は、今ものすごく社会の不寛容さが増してきているように思うからです。たとえば、バブル期のように経済が潤っていて、一人ひとりの生活に余裕があった時代というのは、人間は良心がくすぐられる瞬間って気持ちがいいものなので、弱者に対して施しをし、優しい行為をしてあげたっていうのは、なんだかんだ気持ちがいいわけですよね。だから、弱者ポジションをとる人も、それなりの恩恵にあずかれたと思うんです。ところが今は、おのおの経済的にも苦しい時代になってきて、他人に対して寛容になる余裕がない。となると、逆に弱者に対しては厳しい時代。弱者のほうがたたきやすい時代になってきていると思うんですよね。

中川:それが、おそらく生活保護たたきへもつながってくる話ですね。

乙武:おっしゃるとおりです。実際に生活保護を受けてらっしゃる方の中で、不正受給をしている方の割合というのは、0.4%にしか満たないというデータが出ている。1000人のうち4人です。その割合を、さも結構なボリュームでそういう人がいるかのようにたたく風潮というのは、やっぱり自分よりも弱いものをたたくことで溜飲を下げているのだと。もっと言えば、「俺らだって、こんなに頑張ってこの窮状なのに、なんで俺らよりも働いてないやつがいい目にあうんだ」という思いが渦巻いているんだと思うんです。

だから、昔はある程度、弱者ポジションをとれば、それなりに心地いい思いができた。でも今は、そんなことしてもあまり得はないんじゃないのかな。また「お前は強者だから」と批判を浴びることを覚悟で言いますが、自分がある程度の弱者であるという自覚があったとしても、それで同情を引こうとしたり、弱者であることで何か恩恵にあずかろうとしたりするよりは、「そんな自分でも、できることはないか」と考える姿勢をつねに持っておくほうが、結局は得することのほうが多いような気はします。

中川:その姿勢を持ったうえで、その弱い人を、ちゃんと助けなくちゃいけないと思います。それこそ、生活保護を受けている人って、だいたい高齢者なんですよね。でも、体が動かないから、働けないというだけの話で。では反論を封じ込めるにはどうすべきかというときに、最低賃金を生活保護より上げるっていう話になってくるわけですよ。たとえば、1日8時間アルバイトして、それで月に22日働いたときに、間違いなく生活保護で支給される金額よりも上だという状況を、つくらなければならない。これは政策の話なのに、受給している個人たたきになってしまうのはおかしい。

乙武:理想論でいえば、「想像力を持ちましょう」と。まさに中川さんが指摘された自己責任論が蔓延している今の社会です。じゃ、なんでその人はできないのか。なんでその人は、今その状況に追い込まれてしまったのか。個々の文脈を丁寧に追っていけば、「ああ、それは仕方がないかもね」「そりゃ、頑張れないよね」という状況が、本来は見えてくるはずなんです。

だから、そういう弱い立場の人が、一人ひとり、なぜ今弱い立場にいるのか、いざるをえないのか、そこに対する想像力を働かせるしかない。ただ、世の中はそう簡単に理想がまかり通らないので、まずは中川さんがおっしゃったように、制度設計によって、そういった声が出にくくなるようにしていくことが最適解なのだろうと。

ネットたたきの当事者たちとは誰なのか

河崎:先ほど乙武さんがおっしゃった「僕の存在そのものが窮屈だったりとか、圧のように感じていたりする人たち」は確実にいる。必ずしも障害がある方々の中から出てくるのではなくて、健常者側にも、そういう人たちは多いと思うんです。経済状況がなんであれ、政治的なバックグラウンドがなんであれ、乙武さんという存在それ自体に窮屈さを感じる人々ですよね。その人たちは、たぶんそれこそ相手が強者であろうと、弱者であろうと、とにかく自分の鬱屈であるとか、社会的な不満であるとかをぶつける人たちじゃないかな。今、中川さんがおっしゃったような、弱者であっても強者であってもたたく人たち。ネット上にいる、非常に鬱屈した何かを持っている人たちの心理が知りたい。

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