電通、「働き方改革徹底」への高いハードル 人的資源の補充に25億円を投じるが…

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一方で、国内事業は減益計画とした。売上総利益は0.8%減の3604億円、調整後営業利益は16.6%減の812億円だ。回復基調のテレビや2ケタ増が続くネットなど、国内の広告市場は堅調に推移しているが、働き方改革に伴う費用を投入する。「人的資源の補充に25億円、デジタル化やITインフラへの投資で30億円台を見込んでいる」と中本副社長は説明する。

電通は昨年に社員の過労自殺の問題が表面化して以降、残業時間の上限を70時間から65時間に引き下げ、本社やグループ会社で22時から午前5時まで全館消灯とする試みを始めた。労働環境の改善に向けて社長直轄の専門部署を設置し、人事制度や組織体制の抜本的な見直しも進めてきた。2月28日には外部の有識者で構成される独立監督委員会を設置する。客観的な立場から労働環境改革へのアドバイスを求めるものだ。

だが、今年1月に就任した山本敏博社長は、一連の取り組みは第1弾に過ぎないと強調した。「とにかく法令を順守し、社員の健康を守る。当たり前のことを最優先にやらなければならない。改革は単に仕事時間を減らすとか健康になるというだけでなく、すべての業務に関する改革だ。社員一人一人の心身の健康が品質や業績につながっていく。来期も費用は投下するが、業績はプラスの方向に転じると思う」などと語った。

今度こそ、社員を守ることができるのか?

電通は今後2年間かけて改革を実行するとしている。具体的なプランは現在策定中だ。「単に省力化をするとか、クオリティが落ちても機械化するとかではない。クオリティが上がり、新しい業務プロセスで拡張できる要素があるとかプラスになる手をたくさん集める。具体的には4月の頭にお話ししたい」(山本社長)。

昨年、デジタル広告の不正取引で謝罪した電通幹部。「下請け構造」の課題をどう乗り越えるのか(記者撮影)

ただし、改革は決して簡単には進まないだろう。これまで、労働基準監督署からの度重なる是正勧告にもかかわらず、電通が改善策をとれなかった背景には「下請け構造」がある。

広告代理店である以上、社員は顧客である広告主の事情で動かざるを得ない。「広告主に多少無理を言われても、やるしかない」のだ。

デジタル広告における不正取引問題も、業務過多による人為的ミスが発端だったとされる。そもそも業務量をコントロールしづらい、という課題にどのように対処するかはまだ見えてこない。

電通は効果的な改革プランを策定し、今度こそ社員を守ることができるのか。今期は着実に成長を続ける業績以上に、労働改革の成果が問われることになるだろう。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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