BMW「M2クーペ」4人乗りスポーツカーの実力 サーキットから街乗りまで1台でこなせる

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M2 クーペ専用の7段ツインクラッチ変速機も特筆ものだ。変速用のレバーを引くと加速、押すと減速というパターンである。サーキットでコーナーに入っていくときの減速G(重力)と、そこから加速して出ていくときのGによる操作性を考慮した、いわゆるレーシングパターンである。

ギアボックスの特徴はそれだけない。クラッチのつながりの素早さは、BMWがさかんにこのモデルをサーキットと意味づける証明にもなっている。ギアが入ったら瞬時にエンジンと駆動系を一瞬ですぱっとつなぐ。発進のときも剛性感のあるシフトレバーを操作すると、とたんにギアがつながる感触。クルマはじりじりと前に出ようとする。レースでラインに並び、スタートの合図を待つクルマそのものと感じられる。

意外なほど乗り心地はいい

1450rpmという低い回転域から、465Nmもの大トルクを出しはじめる設定ということもあり、加速性は抜群。かつエンジンはじつに気持ちよく回る。絹のようにスムーズと表現されたBMWの6気筒のよさは健在だ。昨今では低めの回転域で最高出力を発生するエンジンが作れるようになってきたが、BMWの場合はこのエモーショナルな魅力を失ってほしくない気がする。

ハンドリング性能もスポーツカーそのものだ。ダイレクトで剛性感の高いステアリングホイールと、反応のするどいシャシーの組合せは見事。クルマとドライバーとの一体感が抜群で、まさにレーシングカーの世界を思わせる。

変速機は2016年10月にマニュアルも追加されたが、このツインクラッチがいいかもしれない。自動で変速していくモードもあり、力たっぷりなのでギアの選択はクルマにおまかせでも問題はない。

マニュアル変速モードは大きな特長だ。ひとつのギアをホールドして6000rpmあたりまで引っ張り、専用の球状ノブを手前にぽんっと引っ張りシフトアップするとき、もしくはコーナリングでシフトアップとシフトダウンを楽しむとき。その変速のスピード感に感心させられる。

足まわりはロールを抑えてクルマの挙動をしっかりコントロールする設定だ。それでいて意外なほど乗り心地はいい。市街地で使ってもまったく違和感ない。この感覚はなかなか他では味わえない。メルセデスAMGの一部スポーツモデルと似ているともいえるが、793万円で買えるのはM2 クーペの強みといえる。

ダコタレザーというソフトな感触をもつ革張りスポーツシートは座り心地がよい。少し飛ばしたときのホールド性にもすぐれる。ダッシュボードは全体としてはプラスチック感が強いが、ベースになっているのが2シリーズなのでそこはしようがない。このクルマがもてなしてくれるのは、贅沢さを求める後席乗員でなく、運転を楽しみたいドライバーだからだ。

1台でなんでもこなせてしまう使い勝手の幅の広さでいうと、ポルシェのグランドツアラーである911と、スポーツカーの718 ケイマンの間にある存在といってもいいかもしれない。荷物は詰めるし長距離も(すこしガマンすれば)こなしてしまえるいっぽう、軽快でダイレクトな走りが味わえるからだ。

(文:小川フミオ)

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