ポンドは対ドルで史上最安値に向かって行く 対EU交渉はメイ首相の想定ほど楽観できない

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1月17日、英国のメイ首相はEU離脱交渉の方針を示した(写真:ロイター/アフロ)

テリーザ・メアリー・メイ英首相。今、世界で最も注目を浴びる女性の一人と言ってよいだろう。「EU(欧州連合)離脱交渉」という、どのような結果になったとしても国民から批判が起きそうな、最も厄介な時期の首相を請け負うなど、並大抵の覚悟ではできないはずだ。見た目もとても颯爽としているし、同性としても率直に「カッコイイ」と思う。

メイ首相の発言のたびにポンドは大変動

しかし、メイ首相の言動は、しばしば過度な市場のボラティリティ(変動)を引き起こす傾向があるので要注意だ。

まずは2016年10月7日に起きた、ポンドの「フラッシュ・クラッシュ」だ。フラッシュ・クラッシュとは一瞬にして相場が暴落することを言うが、この時ポンド相場は対ドルで瞬時に約6.1%急落した。ファット・フィンガー(誤注文)だった、あるいはアルゴリズムによるHFT(高速取引)や金融機関のトレーダーの仕業ではないか、などの憶測があるが、いずれにせよメイ首相の発言はこの相場に大きく影響している。

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同首相は2016年10月2日の演説で、「2017年3月末までにリスボン条約50条を発動する」、つまりEU離脱を宣言する方針を明確にした。ただ、この後10月5日に「金融サービスは、英国にとって唯一の戦略産業ではない」と述べ、EU離脱交渉において、英金融センターの保護を優先しないとも取れる見解を示した。これを嫌気してポンドは対ドルで急落。こうした混乱のさなかにフラッシュ・クラッシュは起きた。

今年も、新年早々同首相の発言が注目された。2017年1月8日、英スカイニュースとのインタビューで、「EUの離脱交渉においては、移民流入管理と立法の権限回復が最優先事項だ」と述べ、それと引き換えにEUという単一市場へのアクセス、すなわち「自由貿易」や「人の自由な移動」の権利を失うこともいとわない姿勢を示した。EU離脱が、EUや英国経済に深刻な影響を及ぼす、いわゆるHard Brexit (ハード・ブレクジット=厳しい離脱)が意識され、ポンドは急落。ポンドドルは、1.20ドル台半ばと、フラッシュ・クラッシュの際に付けた安値付近まで下落した。

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