米国と英国のFTA交渉がEUの行方を左右する トランプは2国間交渉で米国の優位を狙う

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トランプ大統領の外交デビューは英国・メイ首相との会談となった(写真:UPI/アフロ)

1月28日、英国のメイ首相が外国首脳として初めて米国のトランプ大統領と会談した。

メイ首相は、今月17日にロンドンで、EU(欧州連合)からの離脱戦略として、域外にも開かれた「真のグローバル・ブリテン」を目指す方針を掲げたばかり。単一市場には残留せず、EUとは包括的なFTA(自由貿易協定)を締結するとしている。EU域外の国々と幅広く、機動的にFTAを締結するため、域外関税を共通化する関税同盟からも離れる。

他方、トランプ大統領は、歴代の米国大統領と異なり、EUへの懐疑を隠そうとせず、英国のEU離脱を支持する立場を採る。就任直前に行われたドイツの大衆紙「ビルト」と英国の「タイムズ」によるインタビューでは、EUからは「他にも離脱する国が現れるだろう」と述べて、欧州首脳らの反発を招いた。

さらに、NATO(北大西洋条約機構)を「時代遅れ」と評し、「加盟国間の負担が公平でない」という問題を、キャンペーン期間中から主張してきた。ロシアの勢力圏と境界を接するEUは、トランプ政権の親ロシアのスタンスにも不安を抱いている。しかも、就任からわずか1週間で、TPP(環太平洋自由貿易協定)からの永久離脱、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉入り、メキシコとの国境の壁の建設へと動いたことで、保護主義への傾斜も現実の問題となってきた。

EUを意識したメイ首相の微妙な距離感

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メイ首相としては、米国との間で将来のFTAに向けた布石を打つことは大事だが、踏み込みすぎて、EU側の警戒感を高め、EU離脱協議や離脱後の英国とEUとのFTAに関する協議に悪影響を及ぼすことは避ける必要があった。英国の輸出の4割以上がEU向けで米国向けの15%を大きく凌ぐ。輸入は5割以上がEUからで米国からは1割に満たない。米国とのFTAだけでは、包括的なFTAへの移行の見通しを欠いたまま、EUを離脱することになった場合のショックを、吸収することはできない。

英米首脳による記者会見は、わずか20分ほどだが、メイ首相は米国との特別な関係を強調しつつも、一定の距離は保ち、EUの警戒を引き起こさなかった。今回の会談を、手堅く乗り切ったように思われる。

欧州にとっての2つの懸案事項のうち、NATOについては「100%支持する」との大統領の発言を引き出したことを確認した。同時に、メイ首相は、負担の公平化を求める米国の主張に応え、欧州首脳にGDP(国内総生産)の2%の軍事費の目標達成を働きかける方針を示し、米欧間の橋渡しの役割をアピールした。

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