「日本女性の生産性の低さ」には原因がある 「育児支援」を主体にする日本企業のナゾ

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こうした人々は、勤務先や上司と働き方について直接交渉していたのが特徴です。そして上司は「あなたのパフォーマンスが下がらないなら/上がるならOK」と答えるのも印象に残っています。雇用主も管理職も、両立しやすい環境を与える理由は、仕事の成果を上げるためなのです。逆に言えば、従業員すべてに認める在宅勤務といった発想は、アメリカでは聞きませんでした。

つまり、ワークライフバランスは、パフォーマンスを上げられる人に限定的に与えられる「非経済的な報酬」として使われていたのです。ここで大事なのは、性別や年齢、家族形態ではなく、その人が仕事上発揮する成果が大事ということ。女性が活躍している社会は、一方で厳しい社会でもありました。

女性活用ができている組織は、成果にこだわる

同様のことが日本に進出する外資系企業の一部でも行われています。たとえば、ある外資系メーカーは、管理職女性比率が3割を超えています。担当者によると、女性活用を含むダイバーシティ推進の取り組みを30年近く前から行っており、その間、一度も、育児支援だけを重視する動きはなかったそうです。一方で部下のキャリア上の希望を丁寧に聞くことを徹底するなど、能力発揮できる環境の整備を優先してきました。すべての人が、会社の経営戦略を自分の目標に落とし込み、成果を測る仕組みになっているそうです。

日本企業にも、ダイバーシティマネジメントの先進事例はあります。たとえば外国人社員が多いため、異なる宗教行事や休日祭日に配慮するうち、自然に多様化が進み、女性も働きやすくなった、という事例。この企業は、優秀な人材を確保しておきたい、という観点から、さまざまなニーズに対応した結果、活用が進みました。

企業だけではありません。ある国立大学は、男女共同参画という名称で女性活用を進めたところ、優秀な女性研究者を多く採用できています。もともとの採用基準をクリアしている女性研究者がこの大学に集まるようになった、と言います。

この大学もまた、成果にこだわる組織です。日本の大学は、近年、科学研究費の獲得を重視しています。優秀で研究費をたくさん取れる研究者を採用したくなる仕組みになっている、と言えます。

ひるがえって、女性を活用できていない組織は、何が問題なのでしょうか? 簡単に言えば、収益やコストへの執着があまりない、のではないでしょうか。

女性活用を戦略的な課題と考える経営者は日本でまだ多くありませんが、一部にはしっかり存在しています。稀有な存在である彼らは、女性の離職がもたらすコストを強く意識しています。ある流通企業のトップは、女性店長の離職防止策を導入した際「店長がひとり辞めると1億円の損です」と言っていました。また、あるIT企業のトップは「優秀な人材しか取らないから、ひとり採用するのに1000万円かけている。辞めてもらうと損」と言います。

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