トヨタ式が根本から撤廃目指す「7つのムダ」 創造力を使い切れば「つまらない仕事」はない

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私がトヨタ式との出会いとなった、アメリカからの視察団が日本を訪れたのはちょうど1986年と1987年のことです。当時、技術大国日本が世界に誇る最先端の工場として注目されていたのが、日産自動車の座間工場。車体組み立てラインにはほとんど人の姿も見られないほどの徹底した自動化がなされていました。

一方、アメリカからの視察団の方たちが案内されたトヨタの工場は使い古された機械が並ぶ、とても薄暗い工場でした。その工場を推薦した大野さんには、後日、帰国した視察団のメンバーの1人から手紙が届いたそうです。そこには、「どんな最先端の技術が見られるのかと思ったら、ただ古臭い機械が並んでいるだけの工場だった」との苦言が書かれていました。それに対して大野さんは「いや、あそこにこそトヨタの真髄があるのだ」と話しました。

そこから日産はどうなったか。1995年に座間工場は閉鎖され、深刻な経営危機に見舞われました。1999年にはフランスのルノー傘下に入り、その後、フランスからカルロス・ゴーンさんがやってきえ、経営の建て直しが行われました。一方、トヨタは世界中にシェアを拡大し、今や堂々の世界ナンバーワン自動車メーカーに成長しました。

トヨタ式とは「ものすごく地味でケチなやり方」

もともとトヨタ方式とは華々しさの対極のようなところがあって、もっとはっきり言ってしまえば、「ものすごく地味でケチなやり方」ということもできます。

トヨタ生産方式は、受注したクルマをより早く納品するために、「最も短い時間で効率的に造る」ということを目的に、何十年ものカイゼンを積み重ねて確立された生産システム。その基本思想には、必要なものを、必要なときに、必要な量だけ造る「ジャスト・イン・タイム」、機械が自ら働く「自働化」という2つの基本思想があります。

さらにこのトヨタ式がアメリカに渡り「リーン式」と名前を変えたのは、まさに「lean」=「ぜい肉の取れた」という意味の通り。トヨタ式の鍵は生産工程の中に潜む数々のムダを取り除くことにあります。

30年前、アメリカの工場では、作業者がくわえタバコで機械作業や組み立て作業に従事し、作業台の脇にはコカ・コーラの赤い缶が堂々と載っていることが当たり前でした。今、日本の工場でそのような作業者がいたらどうなるでしょう。ましてやその光景を外部の人にたまたま見られて、写メなどを撮られてSNSに載ってしまったら? 即拡散、大炎上間違いなしです。けれど当時のアメリカはモノがあふれており、小さいムダをコツコツと取り除くトヨタ生産方式は“貧乏人の苦肉の策”と映っていました。

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