「部下が働かない」と嘆く上司の残念な考え方 自分で答えを出させないと仕事は覚えない

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世間に広く信じられていることに「人間は勉強が嫌いな生き物である」「人間は働きたくない生き物である」という話がある。人間はできるなら勉強したくない、働きたくない。サボるだけサボって、楽に生きたいと願うのが人間だ、というものだ。もちろん過酷な労働を強いられてきた経験があると、そんな願望を持っても当然だ。

しかしどうやら、人間は勉強したい生き物だし、働きたい生き物でもあるらしい。それは「できない」を「できる」に変える快感が人間の基本的欲求としてあるためのようだ。ハイハイしかできなかったのが立てるようになった、立つだけだったのが歩けるようになった。「できない」が「できる」に変わる瞬間、人間はそれを快として感じるようにできている。

しどろもどろだった営業トークがスムーズに話せるようになった。不良品の山を築いていたのに失敗が少なくなった。目の前のことで精いっぱいだったのが少し全体を見渡せるようになった。何も知らなかったのにそこそこ専門知識を説明できるようになった。そうした自分の成長を感じたとき、うれしく感じるものだ。「できない」を「できる」に変える快感をできるかぎり促せば、人間はどんどん学びたくなるし、働きたくもなる。

人はやらされるとやりたくなくなる

考えてみると、恐怖で「やらせる」方法は、体育会系、スパルタ式、軍隊式と呼ばれる方法だ。日本では、日露戦争後、逃亡兵があまりにも多いのに業を煮やした軍部が、鉄拳制裁など恐怖で支配し、従順な兵隊を育成しようという動機からこの方式は生まれたらしい。四の五の言わず、命令されれば何も考えず猪突猛進する。そんな兵隊を求めるところからこの方式は生まれた。戦後、軍隊式以外のロールモデルを見いだせなかった体育会系は、軍隊式の指導法を長く引きずることになったようだ。

つまり、人を恐怖で支配し叱責で動かす方法は「考えない人」を生むための方法だ。だから「自ら考えて動く部下がほしい」と思っていながら、軍隊式で部下を鍛えようとしているのだとしたら、そもそも矛盾した手段を取っていることになる。「なんでうちの部下は何も考えないんだ?」と腹を立てているとしたら、そもそも取っている手段が「考えないように仕向ける方法」なのだということを、自覚する必要がある。怒る・叱責する・恐怖で支配する以外の方法を模索していかなければ、自ら考えて動く部下を、あなたは手に入れることができない。ではどうしたらいいか。

「上司は部下に懇切丁寧に仕事を教えなければいけない」と考えている人がいる。しかし、あまりに丁寧に教えすぎると、仕事への情熱を奪い、「指示待ち人間」を生んでしまう。

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