「トランプ対中国」泥仕合で為替はどうなる? 「一つの中国」への疑義が生む軋轢とは

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トランプ氏が、大統領就任前のこのタイミングで、「一つの中国」について言及したのは、対中外交における揺さ振りの一つに過ぎないとの見方が有力だ。中国政府が米中関係の政治的基礎と位置付けている「一つの中国」原則に対し(あえて)疑義を唱えることで、交渉余地があるとされる通貨・通商政策について、中国政府から譲歩を引き出す狙いがあるとみられる。

トランプ氏は今後も、あらゆる場面で中国政府に揺さ振りをかけてくるだろうが、次のターゲットになりうるのが中国の通貨政策である。トランプ氏は、米大統領選挙期間中や、政権発足後100日以内の行動計画(いわゆる100日計画)において、中国を為替操作国に認定する意向を示していた。

為替操作国とは、米財務省が半期に1度のペースで提出する為替報告書に基づき、米議会によって為替相場を不当に操作していると認定された国のことである。為替操作国に認定された国は、米国との2国間協議で通貨の切り上げを要求されるほか、米国は必要に応じて関税引き上げの制裁を実施するとされている。

次の為替報告書は、通常どおりのタイミングであれば2017年4月に提出される。それまでの間にトランプ氏は、為替操作国認定をチラつかせながら、中国政府に対し元安誘導策への批判を強め、元切り上げを要求する可能性がある。

実は元を買い支えている中国当局

しかし中国政府からすれば、中国の通貨政策に関するトランプ氏の主張・要求は、的外れなものとしか思えないだろう。人民元は下落を続けているが、中国当局は為替市場での元買い介入により急激な変動を抑制しており、他新興国通貨に比べればその下げ幅は限定的だからだ。

中国当局は2015年8月、事実上の人民元切り下げを実施し、人民元は対ドルで6.26台から6.44台まで約3%の元安となった。このときは市場実勢を追認するという姿勢のほか、景気悪化を食い止めたい意向などがあったとみられる。その後、人民元はいったん持ち直したものの、2016年初めには6.60台まで元安が進展。中国の大型連休(春節)後に再び持ち直すが、5月からは下落が続き、11月下旬には6.92台と、2008年6月以来(8年5カ月ぶり)の元安水準に到達。12月は6.90を挟んで方向感に欠ける動きとなっている。

一方で中国当局は、為替市場で元買い介入を続けている。中国の外貨準備は、ピーク時(2014年6月)に約4兆ドルに達したが、その後は減少を続け、今年11月には3兆516億ドルと1兆ドル近く減った。中国は経常収支も貿易収支も大幅な黒字であり、外貨準備の減少は、外貨売り・元買い介入を実施したことを意味する。

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