「治療をしない医療」を医療と呼んでいいのか 終末期には「患者の生きる力を邪魔しない」

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香山:治療をしないのに患者さんが元気になるということは、医療に医者なんていらないとも解釈できる。そう思って虚しくなることはありませんか? 私が南先生のお立場だったら、そう思ってしまうような気がします。

:医師の存在意義をどうとらえるかにもよると思うのですが、過剰な延命治療をしない終末期医療においても、感染症の治療や、痛みをなくすなどの緩和的ケアは求められていて、その点では、医者は必要な存在だと思います。

香山:ああ、それはそうですね。

精神科の先生も終末期医療にとって欠かせない

:香山先生のような精神科の先生も、終末期医療にとっては、欠かせない存在なんです。たとえば私が勤務している病院でも、眠れなくて辛いと訴える患者さんは多いのですが、一人ひとりの患者さんの状態に応じて「この方には、睡眠薬じゃなくて、まずは環境調整でいきましょう」など、精神科の先生には、いろいろと判断してサポートしてもらっています。

香山:南先生のような内科医と精神科医が、ちゃんと連携できているのはいいですね。不眠の場合、精神科医は比較的、気軽に薬を出しがちなので、そこでそのような判断ができるのは、本当に偉いと思います。

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:ある精神科医は、「『薬を出したら食事をしなくなった』と言われるのがいちばんつらい」と言っていました。

認知症の患者さんの場合は、ときに行動が暴力的になったり、大きな声を出したりという症状が出ることがあります。そのようなときは、精神科医も薬を出します。ご本人が心身ともに消耗しますし、周りの患者さんとの関係もありますし、現実的な問題としてケアにあたる職員の負担も考えないといけませんので。患者さんのご家族も、そこについては納得されます。

ただ、薬のせいで、患者さんが終日、ベッドでぐったりした状態になってしまわないよう、最小限の処方で、患者さんが穏やか、かつ幸せでいられるようにするのが目標。そういう細やかな配慮をしてくださるので、精神科の先生には頭が上がりません。

(構成:須永貴子 撮影:風間仁一郎)

香山 リカ 精神科医

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かやま りか / Rika Kayama

1960年、札幌市生まれ。東京医科大学卒業。精神科医。立教大学現代心理学部映像身体学科教授。豊富な臨床経験を活かし、現代人の心の問題のほか、政治・社会批評、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで活躍する。『スピリチュアルにハマる人、ハマらない人』『しがみつかない生き方』(ともに幻冬舎新書)、『悲しいときは、思いっきり泣けばいい』(七つ森書館)、『新型出生前診断と「命の選択」』(祥伝社新書)、『ひとりで暮らす 求めない生き方』(講談社)など著書多数。

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南 杏子 医師

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みなみ きょうこ / Kyoko Minami

1961年徳島県生まれ。日本女子大学卒。出版社勤務を経て、東海大学医学部に学士編入。卒業後、都内の大学病院老年内科などで勤務したのち、スイスへ転居。スイス医療福祉互助会顧問医などを務める。帰国後、都内の終末期医療専門病院に内科医として勤務。『サイレント・ブレス』がデビュー作。

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