映画「君の名は。」が中国でも支持される秘訣 作品力だけでなく、数多くの仕掛けがあった

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「海賊版」が企業の利益を損なう、許されざる違法行為であることは言うまでもない。しかしながら、中国政府の方針によって日本アニメがテレビから姿を消した後、「海賊版」の存在がアニメファンの維持につながっていたことも確かだ。意図的なプロモーションではなかったようだが、Everfilterは中国公開直前というタイミングも相まって最高の話題作りとなった。中国メディアは「フィルター・マーケティングという新手法ではないか。今後の映画宣伝のスタンダードになる可能性もある」とまで高く評価している。

「買い切り」でも日本側にボーナス

中国には映画輸入枠制度があり、中国で配給できる海外映画は年間約64本に限られる。そのうち興行収入に比例して制作側の利益が上がる利益配分方式(レベニューシェア枠)が34本、版権の買い切り枠が約30本となっている。前者はハリウッド大作によってほぼ占拠されているため、邦画が食い込むことは難しい。「ドラえもん」も、たとえヒットしても日本側の取り分は増えない契約だったという。

中国では海外映画の公開には制限がある(著者提供)

それに対して「君の名は。」は、買い切り枠ながら興行収入に応じて日本側にボーナスが支払われる仕組みが採用されているようだ。中国映画事情に詳しい関係筋は、「配給権を売却した時点でおしまいではなく、日中両サイドの協力によってヒットにこぎつければ、双方に利益がもたらされるようになった」と証言する。「君の名は。」を機に、制作側にとってインセンティブのある契約形態が拡大する可能性もある。

来年以降は輸入枠制度自体も変わりそうだ。現在の規制は2012年に米中間で決定されたものだが、2017年には再交渉が予定されている。そこでは輸入枠の拡大がほぼ確実視されている。

今後は邦画にも巨大市場参入へのチャンスが広がりそうだ。「君の名は。」はその橋頭堡を築いた映画として記憶されることになるかもしれない。
 

高口 康太 ジャーナリスト

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たかぐち・こうた / Kota Takaguchi

ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国の政治、社会、文化など幅広い分野で取材を続けている。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『中国「コロナ封じ」の虚実』(中公新書ラクレ)。

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