松下幸之助「経営者は目に見えぬものを見よ」 経営の神様が語る「成功のために大事なこと」

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しかし、そういうように、この目に見えるものだけに取り組んでいったら、経営がよくなると思っておる人もおるようやけど、実際にはそれはムリやと。そういうことだけでは、経営というものは、決してよくはならないと。そういうものも極めて重要やけど、もうひとつ、目に見えん要因というか、条件というものも考えんといかん。

目に見えんものとはなにかと言えば、それはたとえば、その会社の経営理念とか哲学とか、あるいは経営者や指導者の考え方とか人柄とか。うん、それだけではなく、社員の人たちの心構えとか、やる気、気持ち、そういったものやな。

経営を考える時に、この目に見えん要因というものも合わせ考えんといかん。経営理念があって、しっかり守られているか、経営者の姿勢は正しいのか、周囲への心配りがあるのか、社員の人たちの心構えはいいのか。あるいは、こうした目に見えない要因というものを、さらに強化する必要はないか。そういうことに取り組まんといかんわけや。

「目に見える要因」「目に見えない要因」の両方が大事

しかし、この目に見えんものには、なかなか取り組まん。あるいは、こういう目に見えんことに取り組むのは、古臭いと考える人もいるようだが、それでは経営は大きく成功することはおぼつかんわね。経営の成功は、この「目に見える要因」と「目に見えない要因」と、両方を大事に考えんとね。

早い話が、金魚やな。あれを飼うのに、金魚そのものを考えるだけではあかんわね。水を考えんとね。金魚ばかり考えて、水を軽視したら、金魚、すぐ死んでしまうがな。

たとえばな、品質管理、エッ? QC? うん、それやけどな、これは、きみ、米国の人が考え出したんやろ。それで米国でやってみたと。けど、結局は米国では成功しなかったわな。品質管理には七つ道具というか、決まった手法があるわね。このやり方をやんなさいと。それを米国でやったけど、うまくいかなかった。なぜ、うまくいかなかったかというと、そのやり方だけを取り入れたら、成功すると考えたからやろうね。あるいは、その他のことは考えなかったということやね。

工場でやっておると。そこで働いておる人、一人ひとりが、自分は品質管理の、教えられたやり方でやっておりますと。他の人は知りません。最終的にいい製品ができるかどうかは知りません。私はやるべきことはやってます、と。まあ、実際にはそのとおりかどうかわからんけどな、そういうことやな。それでは品質管理も成功せんわけやな。

けど、日本では成功したわな。日本の従業員の人たちは、品質管理の手法を身に付けるだけではなく、工場の中で、あるいは仲間同士で助け合った。自分がうまくできても隣の人がうまくいかないと、声をかけた。どうしたんですかと。一緒に考えましょう。隣の人だけでなく、それぞれに声をかけあったわけや。それどころか、仲間同士集まって考え合って助け合った。

そういうことは、品質管理の方法には書いていない。お互いに助け合いましょう、思いやりの心を持ちましょう、やる気を出しましょう、というようなことは、なんも言っておらんのや。しかし、日本の人たちは、そういうことをやった。そこやな。いわば、目に見えるものだけでやったんやない、目に見えんもんもちゃんとやった。そこが米国の人たちと違ったわけやな。日本の従業員の人たちは偉いもんや。日本の発展もこういう人たちのおかげやわね。

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