松下幸之助は「凡人だからこそ成功できた」 経営の神様が問わず語りに語ったこと

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松下幸之助が成功できた理由とはなんなのでしょうか?
江口克彦氏の『経営秘伝――ある経営者から聞いた言葉』。松下幸之助の語り口そのままに軽妙な大阪弁で経営の奥義について語った著書で、1992年の刊行後、20万部を売り上げるヒットになった。本連載は、この『経営秘伝』に加筆をしたもの。「経営の神様」が問わず語りに語るキーワードは、多くのビジネスパーソンにとって参考になるに違いない。

 

庭を見ておると、どこも物差しで測ったような、そんなところはないな。そう言えば、庭師さんが物差しで庭を測っておる姿はあんまり見んな。道のつくりにしても、あれ、くねくね曲がっておるわね。けど、あれは適当に曲げておるんやな。しかし、それでおってなお、庭の道として調和しとるわね。そういうところが日本の庭のええところや。

いつか、あれは誰やったかな、ある財界の人が来た時な、あの道と、あそこの白砂がいい、とえらいほめてくれたことがあるな。門をくぐって、庭に入って、あの道を歩き始める。樹々の間の、あの曲がりくねった道を、ものを考えながらゆっくりと歩いて行くと、あの白砂のところに出る。すると、いままで考えていたことの解決策がパッと出てくると。そんな感じがして、この道と白砂のところはとてもいい、そう言うてたことがあるなあ。きみ、覚えておるか。おもしろい感想やったな。そういうことも言えるわね、ここはね。

うん? わしが成功した理由か? そやなあ、ようわからんな。

仕事を始めたのは3人や。それが今では、関係先まで入れたら数十万人になるやろうな。こんなに大きくなろうとは、正直、思わんかったよ。それで多くの人は、あんたは成功したと。成功者だと。たいしたもんやとよく言うてくれるけど、わしは必ずしも成功したとは考えておらん。なんといっても、人間として生まれてきた以上は、人間としての成功が大事やからね。まだまだ、そういう意味では成功したとは言えんわけや。

やるべきことをやってきた

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けどな、仮に商売だけに限っていえば、確かに成功したと言える面もあるかもしれんな。それで、きみが聞くように時折、どうして、あんたはこんなに会社を大きくしたのか教えてくれと。どんな方法があるのか教えてくれというようなことを聞かれる時があってな。けど、そんなことは聞かれても、あれへんわけや。

理屈で商売をやってきたわけではないからね。その時その時に、ただやるべきことをやってきた。朝がきたら起きる。夜がきたら寝る。そういうことやな。まあ、そういうことを心がけてやってきたけど、これも、いつもいつもキッチリやってこれたかというと、自信はないな。心がけて努力はしてきたと。そんなことやから、どうやって成功したかと聞かれても、よう答えることもできん。

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