花王-カネボウ連合の誤算 美白化粧品回収で、資生堂との“王座争い"に悪影響も

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業績に与える直接的な影響としては、回収や返金に関連して約50億円の費用が発生する見込みで、特別損失としての計上が見込まれる。また、対象54品目の国内売上高は年間約50億円。海外ではアジアを中心に同10億円の規模がある。カネボウ化粧品の直近決算である12年12月期の売上高は1500億円(9カ月の変則決算。11年度は12カ月で同1900億円)と、今回、自主回収する商品が全体に占める割合は数%程度と極端に大きいワケではない。

ブランドイメージと主力販路に悪影響も

ただ、気掛かりなのは、ブランドイメージに悪影響が及ぶ可能性があることと、自主回収商品の主力販路がドラッグストアだということだ。百貨店、化粧品専門店などさまざまある化粧品の販路の中でも、ドラッグストアはもっとも売り場争奪戦が厳しい。店側としても、ある商品が突如なくなれば、そのスペースを別の商品で埋めなければならない。つまり、他社製品に取って代わられ、カネボウ化粧品は売り場を失う可能性がある。

同業大手のコーセーは、2年前の東日本大震災直後、物流倉庫の被災により商品供給が滞った際、ドラッグストアにおける存在感を低下させてしまった。供給能力が完全に回復した後も、すでにドラッグストアの売り場は他社の製品で埋まっており、売り場と売り上げを震災前の状態に取り戻すのに、1年以上の時間を要した。

「棚の入れ替えは新製品の発売が相次ぐ春先、秋口に行うため、その時期にあわせ他社より魅力的な製品を出せなければ、売り場の奪回は難しい」(業界関係者)。今回、カネボウは「別ブランド、別商品で売り場提案を行っていく」としているが、補いきれるかは未知数だ。

国内の化粧品業界では最大手の資生堂が振るわない中、花王・カネボウ連合が年々少しずつ追い上げ、現在は両者ともに1割強のシェアで拮抗している。カネボウ化粧品が06年に花王の傘下に入って以来、店頭美容部員の削減や広告宣伝の効率化も進捗しており、カネボウ単体の収益も大きく回復しているところだった。そんな矢先に起きた今回の事態。花王・カネボウ連合にとって痛手となる可能性は低くない。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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