なぜ若者に「健康オタク」が増えているのか? 「生活者1万人アンケート」からわかった心理

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しかし逆に、一度人間関係がつながってしまうと、意図的に切らない限りいつまでもつながったままになるのがSNSの特徴でもある。大学に進学しても、就職しても、昔の友人・知人とはつながったままとなり、関係は途切れにくい。たとえばFacebookで最近できた友達が写真をアップすると、昔の友人に見られてしまうこともある。自分の姿がいつ・どこでアップされるか、そしてそれを誰に見られるかを制御することが難しい。そのような状況下では、つねに誰かに見られているという意識が生まれ、自身の外面をきちんと整えようとする気持ちにつながっているのだと思われる。

「競争」より「協調」。でもほどよく自分を出したい

先述の調査において若者の価値観変化をみると、他人からの評価が気になる傾向が強まっている。出世意欲や右肩上がりの価値観は薄れ、「競争」より「協調」したいのが今の若者である。消費においても「使っている人の評判が気になる」「周りが良いといっているものを選ぶことが多い」傾向が若者には高い。

しかし一方で、「自分のライフスタイルにこだわりたい」「周りと違うことをしたい」という気持ちも若者は持っている。ただし、周りと歩調を合わせながらも、ほんの少し平均像から外れることで、人とは違う自分をさりげなくアピールしたいと思う。最近、「女子力男子」と呼ばれる人も出てきたが、美意識が高く、化粧をするようになった男性も増えているという。外面的に目立つファッションによって他人に大きくアピールするよりも、体を鍛えて腕っ節をさりげなく見せる、化粧により清潔感ある自分を見せることなどは、他人と違う自分をさりげなくアピールするのにも役立っている。

若者で伸びている健康消費は、「体に対する投資意識」「周りとのつながり意識」「ほどよいアピール意識」といった心理背景が反映された事象であり、それらの心理背景の源泉には若者に強まっている「足場固め」志向がある。

しかし、自分は足場を固めたい、と自ら主張する若者はいないだろう。他人から見られることを意識する彼らにおいては、「本当にしたいこと」と「実際にすること」が分離されて見えることすらある。若者をターゲットとしたマーケティング活動をするときは、若者の行動に表れる表層的な部分をとらえるだけではなく、その心理背景をくみ取ったマーケティングを考えていくことが必要である。

林 裕之 野村総合研究所 コンサルティング事業本部 マーケティングサイエンスコンサルティング部 シニアコンサルタント

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はやし ひろゆき / Hiroyuki Hayashi

2009年東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻修了後、グローバルコンサルティングファームを経て、2015年野村総合研究所入社。専門領域は、生活者の意識・行動分析、需要予測などの予測モデル構築、購買実績データによる顧客の購買行動特性分析など、データに基づくマーケティング活動支援や戦略立案。これまで執筆した書籍(共著)に『なぜ、日本人は考えずにモノを買いたいのか?』(2016年)、『日本の消費者は何を考えているのか?』(2019年、以上東洋経済新報社)がある。

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