魔法瓶サーモス、知られざる高収益の舞台裏 携帯マグボトルの市場創出、次なる挑戦は?

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それでもサーモスの開発・マーケティング部隊はあきらめず、デザイン性を高めるなど地道な改良を重ねた。使い勝手にも知恵を絞り、OLやビジネスマンがかばんを持ちながら片手で簡単にふたを開けて飲めるよう、ワンタッチ開閉式の商品も投入した。

そうした地道な努力に加え、やがて社会的な追い風も吹き始める。2006年辺りからエコロジーが叫ばれるようになり、「(保温・保冷のための電気やガスを必要としない)マイボトルを持ち歩くのはエコでスマート」といったイメージが徐々に広がったからだ。さらに2008年のリーマンショック後の節約志向が重なり、普及が一気に進んだ。 

ただし、市場が広がったことで、後発企業も改良商品を続々と投入してきた。そこで対抗策として、従来品より約3割軽量化し、外径も大幅にスリム化した超軽量・コンパクトモデルを2012年に投入。これが発売から3年1カ月で累計販売本数1000万本を超える大ヒット商品となり、日本市場におけるサーモス急成長の牽引役になった。

サーモス、意外な親会社の素顔とは?

実は、この日本のサーモス、親会社は産業ガス国内最大手の大陽日酸だ。旧日本酸素時代に事業の多角化で魔法びん分野に進出。世界で初めてステレンレス製真空断熱魔法びんの技術を開発し、その技術で海外でも事業を展開しようと、1989年にガラス魔法びんで有名だった米サーモスを買収して傘下に収めた経緯がある。

ただ、当時のサーモスは業績不振が続いて経営の重荷となり、2001年に北米事業の経営権の大半を台湾系の投資ファンド(KWI)に譲渡。それ以降、海外でのサーモス事業については、基本的に同ファンドとの合弁形態で展開している。

大陽日酸側が担当する地域は限られるが、それでも業績への貢献は非常に大きい。同社の前2015年度の連結決算で、日本、韓国など4子会社を対象とするサーモス事業の売上高は275億円、営業利益で60億円を計上(その他事業も一部含む)。柱をなす日本市場だけでなく、韓国でも携帯マグボトルを中心に販売が年々増えているという。

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