第3に、これも以前の記事(日本人が知らないアメリカ的思想の正体)で紹介したことだが、自由至上主義者(リバタリアン)たちの存在があったことを見逃せない。わかりやすい例ではクリント・イーストウッドなど、政府からの自由こそがアメリカのアイデンティティであると信じている人たちである。
思想的にはリバタリアン党のゲイリー・ジョンソン(元ニューメキシコ州知事)に近く、世論調査からは全有権者の10%超をリバタリアン支持者が占めていたと思われる。リバタリアンといわれる彼らは茶会(ティーパーティー)運動を後押しし、2010年の中間選挙で共和党躍進の原動力ともなっていた。
ところが、トランプの評価については二分された。このグループとは筆者はリアルタイムで少しかかわりがあり、ある程度事実として知っているのだが、自由貿易と市場主義を純粋に信じる原理主義者たちはトランプの主張を危険視し、トランプから離れていった。その結果、スイングステートのひとつであるニューメキシコ州ではリバタリアン候補のジョンソンが9%と票を伸ばす一方で、最終的にクリントンが選挙人を獲得している。
しかし、それ以外のスイングステートのリバタリアンは両者の経済政策を眺め、減税、規制緩和推進など目の前の商売にとってマシと思われるトランプに票を投じるという苦渋の決断をしたのかもしれない。
ピータ・ティールが寄付をしたワケ
選挙戦終盤でトランプに1億円超を寄付して話題になったシリコンバレーのリバタリアン投資家のピーター・ティールの言を借りれば、「メディアはトランプの言葉尻をとらえ、(候補者として)真面目に考慮することがなかったが、トランプの支持者は言葉尻にとらわれず、真面目に考慮した」のである。
トランプはそうした冷静な判断をある程度可能にする自分のビジネス、信条、価値観についての本を何冊も書いているし、多少の偏向報道では揺るがないほどの年月、メディアの寵児としての経歴がある。多くの国民にとってはテレビのリアリティーショーの『アプレンティス』に君臨する憧れの大実業家なのだ。
トランプがこだわるのは性別や人種、宗教ではなく、個人の能力と勝負への執念であり、『アプレンティス』ではむしろ性別、学歴といった一般常識にもあえて切り込み、最高の人材を発掘するという設定だった。シーズン1では、参加者を男女のグループに分け、女性チームが勝ち続けたときには自分の事業では「これから女性しか雇わない!」と宣言したほどだ。
一方、彼女たちが物販や広告などの課題を与えられた際、あからさまにその若さやセックスアピールに頼ったことから、「少し女性カードを使いすぎている」と忠告したこともあった。
シーズン2では、高卒の起業家と一流大学出身のエリートのグループを競わせた。参加者にはマイノリティもいた。そこで印象に残っているエピソードがある。
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