結局は都民が負担?膨らむ五輪費用の行方 上山顧問「都や組織委はもっと情報公開を」

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大会まで残された時間は3年8カ月。まずは組織委と都、国、競技施設が整備される自治体の負担額を算出し、責任の所在を明確にすることから始めなければならない。

大会開催に間に合わせるため、大型施設の計画見直しは「11月がギリギリ」(小池知事)。タイムリミットは目前に迫っている。

「キーワードは情報公開」

都政改革本部の特別顧問を務める上山信一・慶応義塾大学教授に、五輪開催費をめぐる問題点、課題を聞いた。

――なぜ開催費が膨れ上がったのか。

一つは、全体の費用の上限が決められていないことが問題だ。また、ほとんどの職員は五輪の仕事が初体験でノウハウがない。汎用品で済むのに、業者に立派なものを造らせてしまうような、悪意は介在しないが、頑張ったがゆえに高くついてしまう現象が起きる。

上山信一(うえやま しんいち)/慶応義塾大学教授。米プリンストン大学院卒。旧運輸省、マッキンゼーなどを経て現職(撮影:今井康一)

都庁では、大会後の施設の利用計画や維持管理などの検討が不十分だ。東京都が管轄するのはオリンピック「準備局」。本来は施設の建設時から、大会後も施設を維持・発展させていく体制を整える必要がある。

まだ開催都市が決まっていない2024年の大会招致では、ハンブルク、ボストン、ローマなど有望な都市が逃げてしまった。最大の理由は財政だ。五輪を持続可能なものにするためにも、今回の費用を見直す必要がある。成果は次の大会にもつながっていく。

──都や組織委員会はどうすべきか。

キーワードは情報公開だ。警備の都合や、IOC(国際オリンピック委員会)と組織委との間の協定の関係で、これまで情報公開が進んでこなかった。組織委は民間団体で情報公開の義務はないが、赤字は都が負担するため、実質的には都民の税金が使われてしまう。

都は役所なので情報公開できる組織だ。五輪の隠されていた部分を、メディアを通じて情報発信すれば“炎上”もある。だがそうなれば、組織委やIOCも費用の中身を見せて、見直す方向に動く。全体のコストが下がれば、次の大会に向けてIOCにとってもよいことだ。

──大会の成功に向けた課題は?

これから出費額が確定していくが、税金から支出される項目はすべて中身を精査すべきだ。

まだ設計が始まっていない仮設施設もある。競技団体や国際競技連盟が何を要望しているのかをチェックし、その必要性を見極める。施設は大会後どの程度使われるのか、競技人口は増えるのかを検証し、プランを描けなければ規模を縮小しなければならない。

すべてがオープンになれば都民も含めていろいろな議論が出て、無駄な設備や施設は造られなくなる。施設の発注規模も正常化していく。これまでは関係者の間だけで計画が作られていたので、大きなパラダイム転換となるだろう。

 

真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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