静かに加速する中国人採用、その「光と影」 見せかけだけのダイバーシティ?
80年代にはありえなかった「三顧の礼」
「私が来日した80年代後半と今では、雲泥の差がありますね。あの頃、中国人が日本の大手企業から“三顧の礼”で歓迎されて就職するとか、そんなことは夢にも考えられなかった時代ですから」
都内で働く50代の中国人男性は笑いながらこう語り出した。私はこれまで主に80年代、90年代生まれの若い中国人エリートにインタビューする機会が多かったが、彼らの親世代にも、日本での仕事について率直な意見を聞いてみたいと思い、話を聞いたところ、こんな意見が返ってきた。
とくに近年、日本で働く中国人のホワイトカラーが増えている。読者の中にも、「うちの会社にも中国人がいる」「取引先に東大卒の中国人が入社した」「日本語がペラペラ」など、と感じたことがある人もいるのではないだろうか。取材した男性の友人の子ども(在日中国人2世)たちも、大手銀行、商社、広告代理店などに続々と就職しているというから、やはり、日本育ちも含めて、日本で働く中国人は増えているのだろう。
厚生労働省の調査によると、15年末の時点で在日中国人は約66万人と全外国人中トップだが、在留資格別に見ると「技術・人文知識・国際業務」ビザの取得者は約6万人。「医療」「教育」ビザの取得者も増えており、ありとあらゆる業界・業種に中国人が広がっている。
人材サービス会社ディスコが行った調査では、16年度中に外国人採用を見込む企業は約57%、1000人以上の企業では70%超という結果が出た。この事実が示しているように、外国人採用に動き出す企業は多い。もちろん、在日中国人数から考えても、その中心にいるのは中国人だ。
私は新著『中国人エリートは日本をめざす』の取材のため、日本を代表する各業界のトップ企業に「御社の中国人の採用状況」について正式に取材を申し込んだ。留学生の採用だけでなく、最近は、中国の一流大学からの直接採用する形態も増えていると聞いたからだ。たとえばA銀行、B商社、Cメーカー、D流通業、という具合に、各業界1社ずつでも取材ができれば、中国人採用の最前線について、一定の傾向が見えてくると思った。
ところが、取材は難航を極めた。いくつかの大手企業の広報部の回答は「確かに外国人は採用しているが、中国人だけに限った話はできない」「中国人を積極的に採用していると書かれると、会社に色がつくので困る」「ごくわずかしか採用していないから、そこだけ取り上げられるのはどうか」といったものだった。
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