静かに加速する中国人採用、その「光と影」 見せかけだけのダイバーシティ?

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これらの取材過程で感じた私の違和感を、冒頭の50代の中国人男性に話してみたところ、彼はため息をつきながら、こう語ってくれた。

「なるほど。確かに、日本企業が中国人の採用に積極的になってくれて、彼らの頭脳を買ってくれていることはうれしいことです。私の時代では、日本では中国人はバカにされて、アルバイトも肉体労働しかなかったし、考えられなかったことですから」

形式だけのダイバーシティ?

「しかし今、多くの日本企業がやっている中国人採用は、人事部が鉛筆なめて考えた“形式だけのダイバーシティ”ではないかと感じます。はるばる中国まで行って、地頭のいい学生を採用しているようですが、いくら頭がよくても、いきなり日本企業に放り込まれて、日本社会や日本人の考え方を理解できるのでしょうか? 採用にかかるコストと結果の相関関係はどうなっているのか、少し心配になります。

北京大学から中国人を何人採用した、と胸を張って、うちはダイバーシティを実現したというのなら、上司である部長にも中国人や外国人をもう少し採用するべきでは? 日本企業の人事は、彼らの言葉(日本語)のスキルは活用するけれど、中国人としてのマインドや発想力はまだ活用できていないと思います。新しい血を入れる、といっても、それは“日本人に同化した中国人”を入れているに過ぎない。便利だから雇っているだけなのでは……」

中国人男性の辛辣な意見を聞いて、私自身、深く考えさせられてしまった。

私の知り合いの若手在日中国人はみんな優秀で、幸い、日本企業に溶け込んで活躍している人が多い。しかし、彼らが今いるポストが必ずしもその人にぴったり合っているか、と考えると、そうではないケースもある。たとえば、中国人だから、という理由だけで、中国の東北部の出身なのに、行ったこともない南方の香港や台湾の担当窓口にさせられた、という知り合いもいる。

また、純粋な日本の大企業文化に合わせることは難しいが、「日本にある外資系企業なら、他の国籍の人もいて、国際感覚のある日本人も働いているので、比較的仕事がしやすい。大好きな日本にもそのまま住める」といって、外資系企業を選択するという中国人もいる。

残念なケースでは、留学生として日本の大学にいたときには日本のことが大好きだったのに、就職したとたん、「日本企業は自分には合わない」「日本の会社員は社畜だ」といって帰国してしまったという例もある。

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