嘉悦を語るうえで、もうひとつ忘れてはいけないことがある。
この改革請負人は、親会社を持つクラブの“タブー”にもメスを入れた。これまで大企業を親会社に持つJリーグのクラブでは、たとえ赤字が出ても、親会社から宣伝広告費として追加出資してもらい、最終的に帳簿上はプラスマイナスゼロにすることが慣例になっていた(もちろんすべての経営者がそうではなく、犬飼基昭は浦和レッズの社長時代、三菱自動車からの赤字補填をストップした)。
だが、嘉悦は自前の経営を目指し、日産からの赤字補填を実質的にゼロへ。赤字が出ることを覚悟した、勇気ある決断だった。
10億円を超えた累積損失
嘉悦は言う。
親会社にクラブの赤字を補填してもらって、財務を表面的に穏やかに見せるようなことを僕はやりたくはない。そもそもマリノスの社長に就任したとき、日産から「赤字補填なしでやっていけるように改革してくれ」と言われていました。どこまで自力でやれるか、本気でチャレンジしたいんです。経営の透明性ですよね。
他所からみると「何をやっているんだマリノスは」っていう風になると思うんですけれども、いろいろな意見は覚悟のうえです。これがうちの実態で、人工的に見栄えをよくするための補填はしません。そうでなければ、問題点が顕在化しませんから。
この挑戦の結果、マリノスの累積損失はじわじわと増え、ついに10億円を超えてしまった。長年続いた親会社への依存体質を、すぐに変えることは難しい。マリノスの場合、横浜駅から徒歩約10分という一等地に練習場があり、土地の賃料だけで1年間に数億円かかっている。体質改善は、時間をかけて取り組むべき問題だ。
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