社会不適応者の僕らが、学者になるまで 「新しい市場のつくりかた」著者、三宅秀道氏の好き嫌い(上)

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「好きでやりたいこと」が認められない

三宅:先生にはずいぶん怒られました。「故郷の復興に役立つ研究をしたいなんて、簡単に言うな」とね。簡単じゃないというのは正しいと思いましたが、僕はできるだけ早く役に立つ研究をしたかった。そのうち「もう神戸へ帰ったらどうだ」と言われて、神戸大に聴講生として行きました。

楠木:状況は変わりましたか?

三宅:僕のひが目でしょうけれど、神戸大も大企業志向で、ほとんどの方は研究対象としては関西の大企業を想定していたようでした。

それなのに僕がやりたいのは、神戸の町の地場産業。吉原英樹先生(現・神戸大学名誉教授)と金井壽宏先生(現・神戸大学教授)は「おもしろいからやったらいいよ」とおっしゃってくださいましたが、経営史の先生に相談しても首を傾げるし、博士課程の入試を受けたら口頭試問で面接官から「そんなのは産業じゃない」とボロクソに言われまして。

楠木:大企業か中小企業というのは研究対象を言っているだけ、研究テーマそれ自体の問題ではないですよね。

三宅:当時は自分でもよくわからないものですから。神戸大のドクターの入試を2年連続で受けましたが、2年連続で落ちました。後日、ある先生に「外部からできるだけ博士課程を採らない方針の時期だから運が悪かった」とうかがいました。慰める意味でしょうけれど「受験成績はトップだったのに気の毒だね」とも言われて、一時期ポキッと心が折れちゃいました。お恥ずかしいことに、メランコリックになって寝込んでしまいまして。

楠木:自分がやりたいことはずっとあって、ただ、それをやる外的な環境が整わなかったということですね。僕は逆で、大学院に行って「何の研究をしようかな」と考えても、やりたいことが出てこなかった。学部時代に藤本隆宏さん(現・東京大学教授)や指導教官の榊原清則先生(現・法政大学教授)を見ていて、「こういう研究がイイのかな?」と思い、表面的な見よう見まねでとりあえずやっただけ。

本当に追求したいテーマが見つからないまま惰性で博士課程へ進学。内発的なものがない。三宅さん同様にメランコリックになりましたが、僕の場合、基本は早起き。メランコリックなのにわりと健康的。ただ、何もやる気にならないので、8時からワイドショーを見て、10時ぐらいにパチンコ屋へ行って、12時間打ち続ける。それでフラフラになるから家に帰ってすぐ寝る。で、早起きして、ワイドショー。で、パチンコ12時間。メランコリックなわりに律儀というか、勤勉(笑)。

そのうちさすがに飽きてきて、また大学院での勉強に戻って、何とか就職したわけですが、30歳ちょい過ぎまでは、自分が手品師になったような感じがしていましたね。

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