フジ次期社長、亀山氏が語るベンチャー投資 フジテレビがベンチャー投資で狙うもの

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かめやま・ちひろ
1956年生まれ。80年フジテレビ入社。“月9”と呼ばれる当社の看板ドラマ「あすなろ白書」「ロングバケーション」などのプロデュースを手掛けた後、「踊る大捜査線」シリーズをはじめ、「海猿」シリーズ、「テルマエ・ロマエ」など映画製作に携わる。現在はフジテレビジョン常務取締役、総合メディア開発、映画事業局長。12年1月、フジ・スタートアップ・ベンチャーズの社長就任。

――ベンチャーキャピタル事業を通して、フジ・メディア・ホールディングスグループ各社、既存事業とのシナジーを追求していくということですね。

だからこそ、僕がこの会社の社長をやる意味があると思っています。映画事業での10年の経験が生かせるからです。かつて映画制作は月に1度開かれる取締役会の決議事項でしたが、2003年に映画事業局(亀山氏が局長に就任)を新設したことで、制作費や宣伝費にどの程度投じるか、現場の収支の勘で動くことができるようになりました。映画公開までどのように盛り上げていくか素早く判断し、決断後はすぐ準備に取りかかることができる。この現場のスピード感が、映画事業をフジの収入柱のひとつにまで育てたのだと思います。

昨年度の邦画興業収入のトップ3が「BRAVE HEARTS 海猿」「テルマエ・ロマエ」「踊る大捜査線THE LFINAL 新たなる希望」とフジテレビ製作の映画でした。テレビ局が作る映画がこれほどまでに、お客さんに訴求することができている理由もまた、この「スピード感」にあります。

テレビ番組制作に携わる人間って、今日作ったものを明日オンエアしなければいけない、というスピード感が身にしみ付いているんですよ。たとえば、4月の番組改編に合わせてドラマを制作する場合、3カ月前となる1月ごろに人を集め、2月に撮影を開始して、毎週の放映日に追われるように作っていきます。

スピードがあってこそ、視聴者の体感温度を感じられる

――過密なスケジュールですね。

本当はもっと余裕をもって撮影したいんですけどね(笑)。でも、このスピードで作るからこそ、“今”の視聴者の体感温度を感じることができる。ラブストーリーを作っていて、「この路線に興味がないぞ」と感じたら、すぐにストーリーを変えてみるというように、すばやく対応できるんです。このテレビドラマ制作で培った俊敏性を映画制作に持ちこんだところ、文化性や芸術性を高めた作品が主流の映画作品の中で、ひときわ新鮮な作品としてお客さんの目を引いたのではないかと、映画事業の成功を自分なりに分析、評価しています。

映画「テルマエ・ロマエⅡ」(2014年ゴールデンウィーク公開予定)

「テルマエ・ロマエ」の制作に当たっても、この素早い決断と俊敏性が必要とされました。テルマエ・ロマエは古代ローマ時代の浴場と現代日本の風呂をテーマとしたコメディ作品です。映画化に当たっては、イタリア・ローマでのロケを敢行しましたが、このロケの出発日が2011年3月12日。東日本大震災の翌日でした。

僕ら、エンターテインメントを提供しているテレビ局の映画制作部門の人間は、無力感に包まれてましてね。僕らが作っている映画をお客さんが見たい!と思える日が来るのはいつなんだろう?1年後か2年後か、もっとかかるのか。先が見えない不安のなかで、「いつか人が笑いたいと思えるとき、コメディ作品が必要になるときは来る」と思い、ローマ行きを決断したんです。

撮影を進めながら、“日本人であること”“励まし合うこと”“絆”など、現在進行形で感じることをストーリーに盛り込み、脚本を手直ししました。2012年4月、当初の予定を延期することなく公開され、数多くの人が映画館に足を運んでくれました。

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