貧困者にとって「望ましい支援」とは何なのか 専門性を持つ支援者が相互協力すべきだ

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そうして触法を重ね、補導を重ねるうちに、彼ら彼女らは地元の児童福祉に敵対感情を持つようになり、支援者につながりづらくなり、濃厚な貧困リスクを抱えたままで年を重ねていくことになる。

そんな彼らにとって、欲しかったのはゲーセンや漫画喫茶に食事ケアや簡易的な宿泊施設がついたもの。そこに住むのではなく、決められて通うのでもなく、居場所がなくなったときに立ち寄って利用できる、したくなるような居場所ケアというわけだ。

さて、随分と昨今議論されている居場所ケアとは毛色が違う。子ども食堂的な食事ケアはすばらしいが、一方で拡充が検討されている学童は、あくまで「学校の延長線上」であり、「ちゃんとできる子」向けである。だが、親が「ちゃんとしなさい」の「ちゃんと」の枠の中にハマる教育すら受けさせられないから、それを子どもに与える時間すらないから、貧困なのだ。放課後になってまで机に向かっての勉強タイムがあったり、持ち込む私物によっては没収があったりするような学校的な学童よりは、子どもは友人宅やゲーセン的な場所を選ぶ。

禅問答のようだが、支援者の支援の枠にハマる子どもだけが支援されるなんて支援は、支援じゃない。

「発達の機会を失った子ども」に必要なケア

このようにして、まずは子どもの利用したい形での「安全な居場所の提供」ができたなら、ここで加えたいのが「療育ケア」だ。本連載では、十分な時間と手間を与えられない貧困世帯や虐待家庭などに育つことで、子どもに非定型発達(発達遅延)が表れ、それがその後の人生の貧困リスクを高めることや、そのことが世代間を連鎖する貧困の正体のひとつなのだと指摘した。

現状で療育と言えば、幼児期に発達障害と判断された子どもに対して作業療法や言語療法などリハビリテーションの技能で発達支援をする現場を指すが、そもそも子どもが発達障害と診断されて療育センターに子どもを通わせている親は、きちんと子どもをケアしているし見ている(決して楽だとか貧困じゃないとか言っているわけじゃない)。だが療育の現場に従事するセラピストたちの技能は、上記のような「発達の機会を失った」子どもたちにこそ、いっそう必要になるケアである。ケアの効果が見込めるのは、不登校児、保健室通学児童、そして児童養護施設や児童自立支援施設、少年院で過ごす子どもたちに対してだって、その能力は大きく機能するはずだ。

苦言を呈せば、現状、この療育の専門性を発揮できるはずのリハビリテーションのセラピストたちは、その多くが高齢者のためのサービスに従事している。特に脳卒中後の高齢者がそのまま寝たきりとなって病院に居続けて医療費を増大させないための、家庭復帰を目指すためのリハビリに、最もその人材が集中しているのが現状だ。

批判覚悟で言うならば、ケアしてもすでに生産の現場には戻らない高齢者と、今後の日本の生産活動を支える子どもと、どちらを優先すればいいのかは一目瞭然ではないか。

ということで、居場所ケアと療育(発達支援)ケアは、必ず連係・両立してほしい。療育については現状、圧倒的に人的資本が足りない(というか高齢者ケアに集中している)うえに、専門医がその子どもを発達障害と診断しないかぎりサービスを受けられないので、医師の診断を必要とする法的根拠そのものに斬り込むと同時に人件費の財源確保という大問題も立ちふさがる。本音を言えば「子どもの貧困対策法」を根拠にざっくり財源確保してほしいとも思うのだが……。

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