沿線人口にも影響?特急料金値上げの波紋 利用者数減少で自治体が人口流出懸念

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佐貫駅に停車中の常磐線普通列車。朝ラッシュ時は特急でも普通でも上野までの所要時間はほとんど変わらない(写真 :xkiyo / PIXTA)

一方、もし普通列車でも着席できる場合、特急利用が選ばれにくくなる可能性が高まる。消費者の節約志向と商品・サービスに対する消費者の評価が厳しくなっている昨今の状況にあって、値上げで割高感が出た特急列車に対しても、消費者の厳しい目が向けられることになるだろう。

実際の状況はどうなのか。筆者は常磐線の通勤時間帯の状況を観察するべく、ある平日に、佐貫駅7時55分発普通上野行き(列車番号:2344M)普通車に乗ってみることにした。この列車は、特急「ときわ62号」上野行き(列車番号:2062M)の3分後に佐貫駅を出発し、上野駅に8時46分に到着する。一方、特急「ときわ62号」は2344M到着の3分前の8時43分に同駅に到着する。

平日では、普通上野行き2344Mと特急「ときわ62号」上野行きの所要時間は同じ51分である。ちなみに、平日の佐貫駅8時36分発普通上野行き(列車番号:1150M)は上野駅まで49分で走行する。

普通上野行き2344Mは佐貫駅で着席できるかギリギリの状況であったものの着席することができた。その後、取手駅で大量の下車があった。また同駅からは上り始発列車も設定されており、列車を選べば同駅から着席できることが多いようである。

また別の日に、勝田駅7時00分発「ときわ62号」普通車指定席10号車に乗車した。茨城県内の土浦駅、牛久駅、佐貫駅での下車もあり、茨城県内の通勤利用が一定程度行われている様子が見られた。佐貫駅以南は全体的に低速となり、佐貫駅~上野駅間では前後の普通列車と同じ所要時間で走行する。「ときわ62号」の場合、速達性の価値はゼロであるため、快適性の価値をいかにアピールできるかが乗車人員を左右すると考えられる。

選ばれる鉄道へ、沿線と対話を

常磐線特急の場合、通勤・通学時間帯のピーク時であっても、列車ごとに乗車率にばらつきがあるようである。通勤・通学時間帯の小田急線や西武線の特急の都心ターミナル駅に近い区間では、出勤時の上り列車、帰宅時の下り列車のほぼすべてが満席であるのとは対照的である。

茨城県企画課は「『上野東京ライン』開業発表に伴い廃止が発表された『定期券用月間料金券』と『フレッシュひたち料金回数券』について発売継続を申し入れた結果、『定期券用ウィークリー料金券』の発売を実現できたが、定期券利用者や回数券利用者にとっては負担増となった。今後も県民が安心して利用できる特急料金となるよう、引き続きJR東日本に要望していく」と語る。今後常磐線特急の乗車人員を回復させるためには、自由席と「定期券用月間料金券」に相当する特急定期券を復活させることが必要であると筆者は考える。

確かに、特急料金の決定は鉄道事業者の専権事項である。しかし、消費者が特急利用を取り止めたり、沿線人口が減ったりしてしまえば、鉄道事業者の収入は長期的に減少する懸念がある。鉄道事業者とステークホルダーの不断の対話を通した、鉄道事業者の利益、地域活性化への貢献、そして消費者保護のバランスを保つ努力こそが、選ばれ続ける鉄道を実現するためのカギではないだろうか。

大塚 良治 江戸川大学准教授

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おおつか りょうじ / Ryouji Ohtsuka

1974年生まれ。博士(経営学)。総合旅行業務取扱管理者試験、運行管理者試験(旅客)(貨物)、インバウンド実務主任者認定試験合格。広島国際大学講師等を経て現職。明治大学兼任講師、および東京成徳大学非常勤講師を兼務。特定非営利活動法人四日市の交通と街づくりを考える会創設メンバーとして、近鉄(現・四日市あすなろう鉄道)内部・ 八王子線の存続案の策定と行政への意見書提出を経験し、現在は専務理事。著書に『「通勤ライナー」 はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。

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