「肥満」より"致死性"が高いのは「孤独」だった 会話がないと人間は死んでしまう

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カシオポの研究によると、孤独は複数の身体機能に影響を与える。これは身体のストレス反応が過剰刺激されることが一因と考えられる。慢性的な孤独は、代表的なストレスホルモンであるコルチゾールの増加と、血管抵抗の上昇(血圧が高くなり重要な臓器への血流を減らす恐れがある)と関係している。孤独により白血球の生成も影響を与えることもわかった。そうなると免疫システムが弱くなり、感染症への抵抗力が低下する。

男性のほうが言い出せない

孤独が心理的な問題や社会学的現象としてではなく、医学的な研究対象と見られ始めたのは、ここ数年のことに過ぎない。臨床医であるペリッシノートが孤独の研究を始めたのは、患者の健康に影響を与える見えない要素がある気がしたからだ。

米国では孤独の研究が盛んになっているが、現実的な対応という点では英国のほうが大幅に進んでいる。

「米国では公衆衛生上の問題だという認識や、孤独が健康に与える影響に対する一般認識が低い」と、ブリガム・ヤング大学のジュリアン・ホルトランスタド教授(心理学)は指摘する。ホルトランスタドの研究でも、孤独と健康悪化に関係があることが明らかにされた。

エイジUKは、全米退職者協会(AARP)と似た組織で、高齢者に孤独を感じさせないようにするプログラムを指揮し、消防隊と連携して家庭における孤独や孤立のサインを探す努力をしている。

ロンドンを中心に活動するオープンエイジという団体も、毎週400前後のプログラムを運営している。教会やスポーツセンター、公営住宅などを借りて、裁縫クラブや時事問題を語り合うグループ、読書クラブ、エクササイズ、コンピュータの使い方を習うクラスなどを開いている。スタッフが会員の家を訪れて外出を手伝う活動もしている。「高齢者の外出を妨げている問題を取り除く努力をしている」と、オープンエイジのヘレン・リーチは語る。

孤独への対処法は、男性と女性で大きく異なる。シルバーラインにかかってくる電話の70%は女性からだ。「男性にはプライドという厄介なものがある」と語るのは、ロンドンに住む元慈善活動家のマイク・ジェン(70)だ。

「男性はつい、『自分で自分の面倒は見られる。誰ともおしゃべりする必要なんてない』と言ってしまう。そんなのまったく間違いだ。コミュニケーションがなければ、人間は死んでしまう」。

(執筆:Katie Hafner記者、翻訳:藤原朝子)

© 2016 The New York Times Company

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