北朝鮮ミサイル騒動後の、驚天動地の結末とは インテリジェンスのプロ、原田武夫氏が大胆分析

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まだまだあるがこの辺でやめておくことにしよう。要するにアメリカは北朝鮮とけんかしているかのように見えるものの、どうやら、そう簡単に一筋縄でいく関係ではなさそうなのである。いや、もっと言うならばアメリカはここで列挙したことが「真実」であるならば、もはや何度でも北朝鮮に対して「鉄拳制裁」をくらわしてもいいはずなのだ。ところが言葉こそ厳しい口調になるものの、決して北朝鮮に対して軍事攻撃を仕掛けてはこなかったのである。中国やロシアがすぐそばに控えているにしても、それでも「やる時はやる」のがアメリカなのである。これを不思議と言わずして何と言おうか。

アメリカは、北朝鮮をねじ伏せることができない

外務省で北朝鮮班長を務めていた私にとって決定的であったのは、藪中三十二アジア大洋州局長(当時、後の外務事務次官)を団長として派遣された日本代表団との間で、アメリカ側が行った国務省会議室での協議における印象であった。議題はもちろん「北朝鮮問題」だ。

持ち前の几帳面な性格のせいだろうか、訓令どおりにわが国の対処方針を説明していく藪中局長に対して、年の頃は40歳前後であろうか、明らかに侮蔑の表情を見せつつ同席していたそれなりのレヴェルのアメリカ政府関係者たちが、またぞろあくびをし始めたのである。「何と無礼な」。そう思った私は帰国後、直ちに彼らの経歴を調べ、しばし唖然とした。彼らはつい先日まで金融街「ウォール・ストリート」の住人だったのである。「これは何かがおかしい。われわれは巨大なわなにはまっているのではないか」そう思った。

要するにこういうことなのだ。―――「北朝鮮問題はアメリカにとって“東アジアマーケットの奪い合い”における対象相手であって、それ以上でもそれ以下でもない」

金融や軍事、あるいは通貨といったマーケットにおいて、アメリカは普通ならば圧倒的な力を持っている。それなのに見かけは小国であるはずの「北朝鮮」をねじ伏せることができないということは、要するにこのマーケットにおけるゲームで優位なのは北朝鮮なのであって、アメリカではないということなのだ。だからあれやこれやと仕掛けるものの、結局は北朝鮮の主張との間で痛み分けとなるか、あるいはかえってマーケットとしての北朝鮮にアメリカは入っていくことができず、煩悶しているというわけなのである。

今、私は「マーケットとしての北朝鮮」と言った。はたしてそんなものが存在するのかと思われるかもしれないが、拙著の最新刊第3章で詳しく書いたとおり、これこそが問題の核心なのである。そして北朝鮮国内マーケットのさまざまなセクターが欧州各国によって、さらには天然ガス・パイプライン建設利権がロシアによって仕切られてしまった今、アメリカの取り分となりうるのは「原子力」と「ミサイル」の2つしかない。

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