「悪質ドーピング」、その手口と対抗策とは? 日本唯一の検査機関が東京五輪に向けて提言

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――活躍しているアスリートは、どれくらいの頻度で検査を受けているのですか。

競技や選手によって異なりますが、多い人では大会に出る、出ないにかかわらず、抜き打ちなども含め、年10回以上というケースもあるでしょう。

――人種の違いが検査に大きく影響を与えることもあるようですね。

タンパク同化剤が使用された際、一般的に尿中のテストステロン濃度が高まりますが、アジア人は欧米人に比べ、濃度が高くなりにくい体質であることがわかりました。そのためアジア人がドーピングをしても発見しにくいケースがあります。対策として、人種の違いによる差をデータ化することに加え、個々の選手の通常の状態も知っておかなければなりません。

――東京五輪では、アンチドーピングラボラトリーが中心になり、ドーピング検査を担うことになります。

現在、15名の研究員がいて、こちらに持ち込まれる検体は年間7000程度です。ただ設備増強は終えており、倍の処理能力はすでに備えています。

検査は儲かるビジネスではない

――世界では、ドーピング検査のほとんどを国や国立大学など公的機関が手掛けていますが、アンチドーピングラボラトリーは三菱ケミカルホールディングス系列の民間企業です。

巧妙化するドーピングと日々戦っている、陰山信二ラボラトリー長(写真:記者撮影)

優位な点は、グループ内で臨床検査や遺伝子分析など、多様な事業を手掛けていることです。ドーピング検査ではこうした研究が役に立ちます。ただ民間なのでコスト度外視というわけにはいきません。社会貢献という位置づけで利益は出なくてもやるというスタンスですが、ふんだんな予算があるというわけでもありません。

一方で、検査装置は1式1億円以上という高額なものもあります。そのため装置は公益財団法人のJADA(日本アンチ・ドーピング機構)からお借りするという形を取っています。

――WADAの認定を維持するのも大変です。

海外では一度認定されても取り消された例がいくつかあります。WADAからはさまざまテストが課され、検体から禁止物質を検出できなかったら、認定を失います。事前にテストと明かさず、通常の検体にこっそりとまぎれこませることもあります。ただ、日本にいると、先端の研究をしている大学の研究者と交流ができる点は、検査能力を高めるうえで有り難いことですね。

藤尾 明彦 東洋経済 記者

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ふじお あきひこ / Akihiko Fujio

『週刊東洋経済』、『会社四季報オンライン』、『会社四季報』等の編集を経て、現在『東洋経済オンライン』編集部。健康オタクでランニングが趣味。心身統一合気道初段。

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